中国の野望に言及、国際社会にその独善的行動への対処呼び掛けた読売
◆非難応酬の米中会談
アンカレジ(米国アラスカ州)で18、19日の両日行われた米中外交トップによる初の直接会談は冒頭から、同盟国との結束を背景に新疆ウイグルや香港での人権侵害や台湾をめぐる中国の行動などが世界の秩序を脅かしていると迫る米国と、それらを内政だと突っぱね強権を誇示する中国の主張とが激しい非難の応酬を繰り広げ、議論は平行線のまま終わった。一方で、利害が重なる気候変動などの分野で協力を模索する動きも見せたものの、両大国の対立はトランプ時代の経済から、政治体制や国家理念そのものの対決へと新たな様相を見せ始めている。
この会談初日の米中それぞれ非難の応酬を読売(20日付3面)は、「米中『公開』舌戦」/「世界の懸念を代弁」、「中国式の民主主義」の見出しで報じた。2日間の会談後に日経(21日付第1面トップ)の見出しは「米中 ぶつかる国家観/経済から対立軸移る」/「世界の秩序脅かしている」、「中国には中国の民主主義」である。米国が世界の国々の中国への懸念をすくい取って伝えているのに対して、中国は<これが中国の民主主義だ(何の文句があるのか)>と居直り一点張りの構図。中国は共産主義国家、あるいは共産党一党独裁国家だと思うが、いつから呼び名を変えたのか、最近のメディアは「権威主義国家」と呼んでいる。それにしても中国式であれ何であれ、いつから中国は「民主主義」の国になったのか。
それはともかくとして新聞論調は一部に双方に自制を求めたものもある。だが、細くつながった糸を切らさず対話の継続を求めつつも、多くが中国に言動の改善を迫ったのは当然である。
◆旗幟鮮明な読売社論
読売(社説21日付)は冒頭から、中国の覇権の野望に言及。国際社会に「中国が国際法秩序や普遍的価値観に基づかない自国中心の主張を押し通し、米国に挑戦する構図が鮮明になった。国際社会は結束し、中国の独善的行動に対処せねばならない」と呼び掛けた。珍しく旗幟(きし)鮮明な社論は南シナ海や台湾海峡、尖閣諸島(沖縄県)周辺での中国の威圧的行動、香港やウイグルでの弾圧などを指弾。オバマ政権時代に「習近平・国家主席は首脳会談で『南シナ海を軍事化しない』と約束したが、反故(ほご)にし」たことを例示し「バイデン政権は『米中関係の前進には中国がまず行動を変えねばならない』という立場だ。対話のための対話は行わず、同盟国との連携を深めながら、中国の変化を促す戦略は理にかなっている」と明快な米国支持を掲げる。
加えて、日本などの同盟国に「米中対立の長期化に備えて、中国の軍拡に対する抑止力強化や、先端技術で中国に依存しない体制作りを急ぐ」よう覚悟も説く。正論である。
米中の議論がかみ合わなかったことを「当然の成り行き」と受け止めた産経(主張・同)は「評価すべきは、米側がこの会談に向け、同盟国との対中連携を積み上げ、『世界の懸念』として中国に改善を迫ったことだ」と、米国側の手順を踏んだ準備を褒めた。開催地にアラスカを選んだことも「米側が訪中せず、中国側をワシントンに招かない突き放した対応」で、安易に対話に転じないとのメッセージだと論じた。次の一手へさらに連携を深めるために、日本にも覚悟と行動を求め「人権問題で、日本はより明確な批判を中国に突き付けるべきだ」と迫ったのである。
◆看過できぬ強権発動
2紙に比べると、他紙はやや対話への比重に傾くが、それでも日経(社説・同)は中国の行くべき道は「まず力で現状を変更するような対外戦略をとらず、中国の主張を受け入れない国に経済的な圧力をかける手法を自制する。これが先決だ」と諫(いさ)めた。
「できる限り対話を広げ、意思疎通の努力を続けてもらいたい」と願い対話を強調する朝日(同)ですらも、中国の人権問題では国際社会に覚悟を突き付ける。今回の協議でのぞかせた「国力を蓄えた中国の世界観」に「その文脈で、新疆ウイグルや香港、台湾などでの強権発動を正当化する主張を、国際社会は看過してはなるまい。人権や法の支配などの規範を堅持する覚悟が、国際社会全体に求められている」と覚悟のほどを問うているのだ。
(堀本和博)