外交・安保棚上げの「民共共闘」を目論み長野補選の政策協定隠す朝日

◆都合のいい逃げ口上

 「直ちに影響はございません」。3月11日の東日本大震災10年を経て、この言葉が蘇(よみがえ)ってきた。当時の菅(かん)直人(なおと)内閣のスポークスマン、枝野幸男官房長官(現・立憲民主党代表)は、福島第1原発事故の発生後、新たな事態が起こるたびに記者会見し情報を伝えた。その時の枕詞(まくらことば)が「直ちに影響はございません」。その都度被災者は混乱し、避難所を転々とさせられた。

 「直ちに」とは「時間をおかずに行動をおこすようす」(広辞苑)をいう。それを否定するのは、いつのことやら、時間が不明であるばかりか、影響があるのかないのかも定かでない。実に都合のいい逃げ口上だった。

 震災10年を回顧する読売のインタビューで枝野氏は「原発をゼロにするゴールは100年単位」と語っている(5日付)。とすれば、立民の「原発ゼロ」公約も「直ちに影響はございません」の類というほかない。上行(じょうこう)下効(かこう)。上の者が行うと、下の者がそれを見習う。今年の政治決戦(総選挙)の行方を占う衆参補選・参院再選挙(4月25日投票)で、それが見られる。

 参院長野補選で立民と共産の地元組織が立民新人候補と「核兵器禁止条約に署名・批准」「原発ゼロ」「日米同盟に偏った外交姿勢を是正」といった、共産の主張を丸呑(の)みにした政策協定を締結した。「民共共闘」だ。これに対して共産と一線を画す連合から不満が噴出、民間企業系労組からは立民候補支援を否定する声も出た(読売11日付)。

 これ対して立民の福山哲郎幹事長はこう語っている。

 「政策協定は地元の思いでサインしたと思うが、党本部は政策協定に拘束されるものではない」

◆有権者欺く立民候補

 なるほど「直ちに影響はございません」か。だが、選挙は国政を問う。地元と中央で政策が違うなら、票の振り込め詐欺だ。批判が高まると、立民候補は民間労組を取り込もうと、今度は旧民進系団体と新たな政策協定を結んだ。

 それには原発について「二項対立的思考に陥ることなく、雇用の公正な移行を維持しつつ、あらゆる政策資源を投入して、原子力エネルギーに依存しない社会を一日も早く実現する」と玉虫色にし、共産と結んだ「日米同盟是正」の文言はすべて削った(毎日19日付)。その一方で共産との協定も維持した。有権者を欺く、ご都合主義の極みだ。

 こうした動きが注目されるのは、総選挙での野党共闘の試金石となるからだ。他選挙区では、衆院北海道2区も参院広島も「民共共闘」は成立していない。それだけに長野に視線が注がれる。

 前記の読売記事は政治面トップ、産経は11日付で「共産と『日米同盟是正』協定 連合反発 立民は苦慮」と書き、枝野氏は共産との協定で連合会長に陳謝する羽目になった(読売18日付)。毎日は20日付総合面で「立憲、共産と連合の板挟み 衆院選共闘に影響も」と報じた。

◆手抜き見出しの短報

 ところが、朝日は沈黙だ。かねて主張する「民共共闘」の成否に関わる一大事だけに見過ごせないはずだが、それが長野版のみ。全国版は目を凝らしても見当たらない。ようやく20日付「政官界ファイル」に「立憲、長野補選での協定を連合に陳謝」との見出しで扱った。実に2日遅れ、それも短報だ。

 それにしても何たる手抜き見出しか。ニュースのツボは「共産との協定」だ。その肝心の「共産」を外し、おまけに記事には「原発ゼロ」はあっても「日米同盟是正」がない。協定で、最も危ういのは国家の根本に関わるこっちの方だ。それを朝日は隠蔽した。外交・安保棚上げの「民共共闘」を目論(もくろ)むから、騒がれては困るのだろう。

 枝野氏も同様か。連合会長に陳謝したが、共産との協定を破棄するかはお茶を濁した。何を陳謝したのか理解不能だ。どうやら朝日も枝野氏もこう言いたいらしい。「直ちに影響はございません」。鵜呑(うの)みにすれば、国民は漂流させられる。

(増 記代司)