「車載用電池」強化へ開発と原材料確保に全力をと力説する読売社説
◆依然利点大きい原発
東日本大震災から10年が過ぎた。東京電力福島第1原発事故から10年でもある。
この間、日本のエネルギー事情は大きく変わり、原子力が大きく落ち込む一方で、太陽光発電や風力など再生可能エネルギーの開発が進んだ。
もっとも、前回の小欄でも取り上げたが、当初から予測された通り、エネルギー政策上最も重要な安定供給の面で、天候に影響される再生エネの欠点が、この冬の電力需給逼迫(ひっぱく)で明らかになっている。
3月12日付の朝日社説「いま再び脱原発の決意を」と、毎日社説「原発のこれから 現実直視し政策の転換を」は、その見出しの通り、相変わらず脱原発を唱え、「再生エネの拡大」を強調するばかりである。
その点、読売5日付社説「原発の将来像をどう描くのか」は、「今後、太陽光や風力を使った再生可能エネルギーの利用が伸びたとしても、二酸化炭素を出さない原発の利点は大きい。電力の安定供給にも役立つ」と指摘し、より現実的かつ客観的である。
ただ、その原発だが、震災前には全国に50基以上あったが、福島原発事故後は老朽施設を中心に廃炉が相次いで決まり、残る33基も再稼働は9基にとどまっている。
再稼働が進まないのには、左派系紙がひときわ強調する原発への国民の不信感や不安もある。読売は「政府は、今後の原発の役割を含めたエネルギー政策の議論を深め、方向性を明確にすることが大事だ」と強調するが、その通りである。
同紙も指摘するように、原発関連の事業は数十年単位の計画になる。「落ち着いた環境で冷静に検討」(同紙)することが重要だろう。
◆低価格化の実現必須
さて、その読売が脱炭素化に資する産業政策として、14日付社説で取り上げたのが、電気自動車(EV)用の電池の競争力強化である。
EV用の電池製造会社や素材メーカー、商社など約30社が協議会を発足させるとの発表を受けてのもので、「開発や原材料の確保で後れを取らないよう、官民で全力を挙げねばならない」と訴えたのである。
「後れを取らないよう」というのは、電池はもともと日本が世界をリードしてきた分野で、車載用リチウムイオン電池は2016年に約4割の世界シェア(市場占有率)でトップだったが、19年には中国に抜かれ2位となってしまったからである。
「日本が先行しながら、台湾や中韓メーカーに席巻された半導体や液晶パネルと状況が似てきた」ため、その二の舞いとならないよう、過去の教訓を生かした戦略が望まれるというわけである。事は日本の基幹産業である自動車に関わる話だけに、同紙の危機意識には同感である。
そのために、読売がまず提案するのは、国内EV市場の成長と量産による低価格化の実現である。現在のリチウムイオン電池は高価なため、EVは割高になっている。同紙が「国が普及目標を明確化し、企業が研究開発などに大規模投資をしやすくすることが大切だ」というのも肯(うなず)ける。
そして、もう一つが原材料の安定調達である。中国がニッケルやリチウムなどの希少金属の囲い込みを図っていて供給不足に陥る可能性があるため、「日本も、官民で調達先の多様化や希少金属の使用を減らす技術開発などを進めてほしい」というわけで、尤(もっと)もな提案である。
◆「全固体電池」に期待
特に次世代電池として「全固体電池」の実用化が、エネルギー効率が高く、短時間での充電や航続距離の延伸に期待されている。現状では日本企業が持つ関連特許が世界最多で、トヨタ自動車が20年代前半に搭載車を販売する計画という。「技術的な課題を克服し、日本の優位を維持してもらいたい」というのが同紙の希望である。
原発にしろ、車載用電池にしろ、政策提言は今回の読売のような、地に足が着いたものであるべきであろう。(床井明男)