中東・東地中海での新たな連携の出現を指摘する米ブルームバーグ
◆独裁者去り空白発生
中東のペルシャ湾岸から東地中海にかけての地域で経済、安全保障をめぐって新たな協力関係の構築が進んでいる。地域の大国イラン、トルコと周辺諸国との緊張関係が大きな要因として挙げられるが、近年開発が進む東地中海の天然ガス田、リビアとシリアの内戦などが絡む複雑な構図となっている。
イスラエル紙エルサレム・ポストの記者であり、シンクタンク「中東報道・分析センター」の事務局長セス・フランツマン氏は米ブルームバーグ通信への寄稿でこの変化について、「イラクとリビアの独裁者が去り、米国の中東への関心が薄まったことで、力の空白が発生、イランとトルコがその空白を埋めようとして」発生したものと分析している。
トルコでは、エルドアン大統領の下で強権的な外交が進められてきた。近年ではリビア暫定政府への軍事支援が目を引いたが、エジプト主導で進む東地中海の海底天然ガス開発にも興味を示している。リビアとの間で一方的に排他的経済水域(EEZ)を設定して、海底ガスパイプラインの敷設の妨害を試みたことで、宿敵ギリシャの強い反発を招いた。
一方、トルコが対外的な野心を示していることが、安全保障をめぐってギリシャ、サウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)の接近を招き、3カ国の軍事演習という安全保障での連携につながったとフランツマン氏は指摘する。
また、イラク、シリア、レバノンで強い影響力を持つイランの脅威によって「UAEとバーレーンが、イスラエルとの長年の敵意を乗り越え、『アブラハム合意』による国交樹立へとつながった」とフランツマン氏は指摘する。「敵の敵は味方」が通用するのが、国家の存亡を懸けた外交の世界ということか。
◆経済的要因で一つに
そこにさらに天然ガスという経済的要因が加わり、地域全体が一つにまとまるという新たな動きが誕生しようとしている。
先月、ギリシャで欧州と中東を結ぶ「懸け橋」をうたう「フィラ・フォーラム」が開催された。参加国はギリシャ、イスラエル、キプロス、サウジ、バーレーン、UAEなど。これまでなら一堂に会することがなかった面々だ。さらに、2019年1月、エジプト主導で「東地中海ガスフォーラム(EMGF)」を設立することで合意、ギリシャ、イスラエル、パレスチナ自治政府、さらにはイタリア、フランスまでもが加わった。ペルシャ湾岸から、欧州へと広がる新たな連携の動きだ。
だが、いずれにもトルコは参加しておらず、依然、蚊帳の外。
これらの新たな連携の誕生に対してフランツマン氏は、「イランが敵意をむき出し」にする一方で、トルコは「融和的な姿勢」を取り始めていると指摘する。
トルコは「数週間前にアラブ諸国との和解の意向」を示し、エジプトに対しては、EEZの設定をめぐって譲歩する用意があることを示したことが報じられた。
オーストリア欧州・安全保障研究所の上級研究員マイケル・タンチュム氏はニュースサイト「アラブニュース」で、「東地中海の主要諸国との関係の再調整を求める動きがトルコ内で強まっている」と指摘、トルコでギリシャ、エジプトなどとの和解の機運が高まっていることを指摘している。
◆方針転換したトルコ
トルコ紙デイリー・ニュースによると、イスラエルのスタイニッツ・エネルギー相が9日、ギリシャ訪問中に、東地中海での天然ガス開発でトルコと協力の用意があり、EMGFへのトルコの参加を歓迎する意向を表明した。
欧州とアラブの狭間で孤立を強めていたトルコだが、わずか数週間で手のひらを返すような方針転換を見せた。フランツマン氏は「予見し得る将来、この新たな連携はいっそう深く、強まる」と楽観的だ。
(本田隆文)