米新政権の誕生、バイデン大統領にくぎを刺すエルサレム・ポスト紙
◆動揺するイスラエル
イスラエルの最大の同盟国米国で新大統領が誕生した。エルサレムのイスラエル首都承認と大使館移転、イスラエルに有利なパレスチナ和平案、イラン核合意離脱などイスラエル寄りの政策を次々と打ち出してきたトランプ大統領の退陣でイスラエルも揺れている。
イスラエルのエルサレム・ポスト紙はバイデン大統領就任式前日、「ジョー・バイデン、健闘を」の社説を掲げた。右派系紙らしく、民主党のバイデン氏に対し少し突き放した印象の社説だが、パレスチナ和平、イラン核合意など自国の安全を米国に頼らざるを得ないイスラエルとしては、新政権に一定の支持、期待を表明せざるを得ないというところか。
ポストは、当時副大統領だったバイデン氏が2013年に行ったユダヤ・ロビー「米イスラエル公共政策委員会(AIPAC)」での演説で「独立した、安全な国境を持つ、世界が認めたイスラエルは、現実的にも、戦略的にも米国の国益」とイスラエルへの強い支持を表明したことを指摘。「イスラエルにとって、強い米国は強いイスラエルを意味する。激しく二極化した選挙戦だったが、バイデン新政権が米国民を一つにすることをイスラエルは期待している」とバイデン政権への一定の支持を表明した。
◆イラン核合意復活も
その上で「バイデン氏は中東で数多くの困難に直面する。特にイランだ」とイラン核開発問題への対応を牽制(けんせい)している。
トランプ前政権は、オバマ政権時に交わされたイラン核合意から離脱、イランへの制裁を再開した。核合意が交わされたのは、バイデン氏が副大統領だった時だ。合意離脱でペルシャ湾岸の緊張は一気に高まり、アラブ諸国は対イランでの連帯を迫られた。これが、皮肉にもトランプ氏の最大の実績「アブラハム合意」の一因にもなっているとみられている。この合意によって、バーレーン、アラブ首長国連邦(UAE)、スーダン、モロッコの4カ国がイスラエルとの国交樹立で合意、地域の安定に資するのは間違いない。
イスラエルの右派ネタニヤフ政権は米国のイラン核合意離脱を歓迎した。ところがバイデン氏は、核合意復活の可能性を示唆しており、政権の陣容を見る限り、復活へ意欲満々に見える。ポストは、退任するフリードマン駐イスラエル大使が米新政権の陣容をめぐって、「理性的な人なら、核合意への復帰は望まない」と指摘したことを取り上げ、合意復活にくぎを刺した。
一方でポストはバイデン氏がアブラハム合意を推進し、「オマーン、サウジアラビアなど他のアラブ諸国との合意を仲介」することに期待を表明した。しかし、バイデン政権はすでに、イスラエルとの国交樹立への見返りとみられているUAEへのステルス戦闘機F35売却の見直しを表明するなど、合意の今後は不透明だ。
◆3月の総選挙に注目
一方、左派系イスラエル紙「ハーレツ」は、「狂乱の4年間、バイデン氏の出番」と反トランプ、バイデン支持を明確にした。
「トランプ氏は『米国を再び偉大な国に』と書いた野球帽をかぶり、その逆のあらゆることをした」とこき下ろした上で、「新型コロナ感染は世界最悪、EU(欧州連合)との関係は悪化、中国と貿易戦争を開始し、中東での影響力はしぼんでいる」と指摘。「焦土化したこの地を復活させてほしい」とバイデン氏への期待を明確にした。
ハーレツは「平和を希求し、リベラルな世界観を持つイスラエル人なら誰もが、バイデン氏の大統領就任を喜ぶべきだ」としながらも、「左派も右派も、米国がイスラエルの火中の栗を拾ってくれると期待してはならない」と警告する。
イスラエルでは3月に2年間で4回目の総選挙が実施される。イスラエルの右派政権が存続するかどうかで、米国の中東政策、中東情勢は大きく変わる。
(本田隆文)