バイデン米新政権に外交・安保で厳しい対中姿勢の継承求めた産経など
◆まさに嵐の中の船出
第46代米国大統領に20日、民主党のジョー・バイデン氏が歴代最高齢となる78歳で就任した。就任式は連邦議会議事堂周辺にバリケードを築き、ワシントン市内を州兵2万5000人が厳戒体制を敷く異例の事態下で行われた。まさに<嵐の中の船出>である。
嵐は死者が40万人を超え今も収束していない新型コロナ禍であり、大統領選でも噴出した人種対立や経済格差などがもたらす米社会の分断である。式典にトランプ前大統領が出席せず、6日にトランプ氏支持者の一部が連邦議会議事堂襲撃事件を起こしたことが平和な政権交代とは異なる光景をさらけ出した。改めて、分断と党派対立が根深いことを印象付けたのである。
バイデン政権のスタートで、各紙(22日付、朝日は21日付)論調の見出しは次の通りである。「米国の結束と底力が試される」(読売)、「新思考で国際秩序の再生を」(朝日)、「米新政権と連携して国際秩序の再建を」(日経)、「自由世界の団結主導を」(産経)、「米国の結束どう取り戻す」(毎日)、「社会分断の深刻化で前途多難」(本紙)。
この中で読売が言及したキーワードは、内政ではバイデン氏が就任演説で何度も強調して呼び掛けた「結束」である。冒頭で「内政、外交ともに難題が山積している中での船出だ。国民が危機感を共有し、結束へと向かう機会にしてほしい」と期待感を寄せた上で、最大の課題に「新政府が求める求心力を高めるには、まずコロナ禍の収束と景気立て直しで成果を出すしかない」と二つの課題を挙げた。
◆日本が相応の役割を
朝日も課題は「米国が今、コロナ禍に加え、国内の著しい分断と威信の低下にあえいでいる」と指摘。だが、課題をどう克服したらいいのか。その知恵となると、バイデン氏が家族の事故などの不幸を乗り越えてきたことに触れた上で「コロナ禍のなか、『他者』に共感できる指導者像を国民は待望した」と言うだけ。もう一つの課題の分断の克服でも、細った中間層の厚みを取り戻すため産業構造の転換、寛容な移民政策を支え社会の活力や技術革新の強化に言及する言葉だけでは物足りなさが残るのを否めない。
日経と産経は外交・安全保障を中心に期待を寄せた。南・東シナ海でルール無視の覇権拡大に走る中国に、バイデン政権がアジア政策重視で一層の警戒を継続することを求めたのである。
「中国やロシアなど強権的な国家が影響力を強める世界において、自由と民主主義を守る役割も重要だ」とする日経は、米国について「安全保障の観点でいえば、いまの米国に世界の警察を担う国力はもはやない」と指摘。その上で「米国、日本、オーストラリア、インドなどが一体となって国際秩序の破壊者に対抗していくことが望ましい。ホワイトハウスに新設されたインド太平洋調整官らと手を携え、しっかりした枠組みを構築したい」と、日本政府に国際秩序の再建に積極的に踏み込んで相応の役割を果たすことを求めた。いつまでも米国におんぶにだっこというのは、今の時代には許されなくなっていると言うのであろう。同感だ。
◆アジア政策重視求む
読売は「中国への対処は待ったなしだ」と警戒感を示し、産経も「中国への厳しい姿勢変えるな」のサブ見出しを付け「米国は自由や民主主義を重んじる国々のリーダーであらねばならない。バイデン氏は国内を固め、覇権主義に対抗する先頭に立ってもらいたい」と、政権にアジア政策の重視を求めた。
さらに産経は「中国を抑止する具体的行動が足りなかった」とバイデン氏が副大統領だったオバマ政権が掲げたアジア重視の「リバランス(再均衡)」に言及。自由と民主主義が脅かされている今日「『自由で開かれたインド太平洋』構想とこれを実現するための日米豪印の枠組みは中国の覇権阻止に有効であり、引き続き発展させなければならない」と訴えた。またトランプ政権のポンペオ国務長官が中国のウイグルの少数民族弾圧を「ジェノサイド(民族大虐殺)」とした認定に対して、上院公聴会で「同意する」と表明したブリンケン国務長官に「自由台湾の防衛も含め厳しい対中姿勢」の継承を求めたことも同感である。
(堀本和博)





