有権者になる韓国「Z世代」

真正性と公正性を重要視

 この欄で韓国の世代論を幾つか取り上げたが、何かにつけ流行や世界の流れに敏感で行動が早い韓国で、今や「Z世代」が論じられている。新東亜(1月号)で『Z世代はそんなのではなく』の著者・高スンヨン氏が書いている。

 高氏が示すZ世代の“定義”。▽ネットでつながるモバイルネイティブ▽気候変動からBLM(ブラック・ライブズ・マター)デモ支援に至るまで、世界あちこちに一声で共に動く▽好みと関心により緩く連結される、▽多様な国籍や人種、性アイデンティティーを自然に受け入れる▽“公正性”と“真正性”を重要視する▽進歩か保守かの伝統的な二分法と対決様相に関心がない―などを挙げる。

 Z世代の前世代が前回の本欄で取り上げた「X世代」(昨年12月12日付)である。彼らは別名「97世代」(1990年代に学生で70年代生まれ)といわれ、その前の「86世代」(80年代に学生で60年代生まれ)に“下働き”として使われた実働部隊で、なかなか主役になれなかった世代だ。

 高氏の分析によれば、「Z世代にとって、この2世代(86世代、97世代)は集団主義志向が強くて偽計を用いる“おっさん世代”にすぎない」となる。

 そこで関心となるのが「彼らの政治的声を誰が代弁できるか」だ。86、97世代の多くは進歩・左派志向が強く、一部は文在寅政権の“岩盤支持層”を成している。だが、保守・進歩の二分法に関心がないZ世代の性向から見て、彼らの政治的関心をすくい取れる政党は今のところない。

 高氏は政界で主導層として浮上しつつある「97世代」つまり「X世代」が「文化的類似性」を基にして「Z世代の代弁者となるだろう」と分析しているが、どうだろうか。無理がある話のように思う。X世代はまだまだ保守・進歩の対決構造から自由でなく、4月のソウル・釜山市長補選、その後の大統領選へと続く韓国の“政治の季節”に巻き込まれながら、陣営論にからめ捕られていけば、Z世代の離反を招くことは十分に予想できる。

 Z世代が公正性・真正性にこだわるとすれば、不正に対する処罰意識も強いはずだ。そしてその意識は保守であれ、左派であれ、あるいは外国にも区別なく向かうだろう。

 政界もこうした新世代を有権者として迎え、彼らの支持を得ようとすれば、これまでとは違う手法やアプローチが必要だ。韓国の場合、それがくっきりと表れている。日本の場合、政治も経済もZ世代に相当する若者を票や市場として掴(つか)み切っていない。その点で先を行く韓国の事例は示唆に富むものがある。

 編集委員 岩崎 哲