李明博・朴槿恵「赦免」論の背景
「国民の統合」と「品格」のため 与党代表が口火、野党にも同調者
韓国の朴槿恵(パククネ)前大統領の3年9カ月にわたる裁判が終結した。「国政壟断(ろうだん)」で朴被告は懲役15年と罰金180億ウォン、他の容疑で懲役5年を言い渡された。69歳の前大統領はこれから20年も監獄で過ごさなければならない。
同じく訴追された李明博(イミョンバク)元大統領(79)は昨年10月に懲役17年、罰金130億ウォンが確定して服役中である。
韓国で元大統領が罪に問われた例として、「軍事反乱と秘密資金」で収監された全斗煥(チョンドゥファン)、盧泰愚(ノテウ)の両氏がいた。収監されないまでも、家族や周辺のスキャンダル・疑惑が追及された金泳三(キムヨンサム)氏、追及される前に自死した盧武鉉(ノムヒョン)氏の例もある。韓国で“最もリスキーな職業が大統領”というのもうなずける。
それにしても懲役20年は過酷過ぎる。ところが、韓国ではいったん死刑など重刑を下して国民の処罰感情を充たした後、時期を見て特赦を与え社会復帰させることもしばしばだ。全斗煥、盧泰愚両氏は死刑から蘇ってきた口である。ここにきて、またぞろ李明博、朴槿恵両氏への赦免論が出てきているのも、そんな流れだ。
朝鮮日報社が出す総合月刊誌月刊朝鮮(1月号)が取り上げている。口火を切ったのは何と与党「共に民主党」代表の李洛淵(イナギョン)前首相だ。「適切な時期に文在寅(ムンジェイン)大統領に建議する」とし、その理由を「国民統合のため」とした。李洛淵氏は次期大統領候補の筆頭として挙げられる人物で、当然、そのことを意識したパフォーマンス、という見方もある。
だが、前述のような“韓国式元大統領の罰し方”からすれば、いつかは赦免することになり、最も効果的な時期を選ぶとすれば、文政権によって分断された韓国社会で、新型コロナウイルス感染の危機を国民統合で乗り切るため、というのはいいタイミングではある。
同誌は他に野党側の人物が赦免に同調している様子を伝えている。4月の釜山市長補選に出馬準備中の野党「国民の力」の朴亨埈(パクヒョンジュン)元議員と李彦周(イオンジュ)元議員だ。国民の力の前身は未来統合党、最大野党であり、その前はセヌリ党、ハンナラ党で、政権を担った朴槿恵氏を支えた党である。だから両氏が赦免を求めるのは当然としても、李洛淵氏に追従したように見えるのが「元親朴派」としては格好が悪い。しかも選挙目当ても見え見えだ。
興味深いのは赦免の理由として朴元議員はじめ赦免を口にするほとんどの人が「国の品格のため」を加えているところ。元大統領に重刑を科したり、不幸な末路を辿(たど)らせている国には「品格」がない、と見ているのだろう。
その一方で、朴亨埈氏は「2人の前職大統領に適用された規定の通りならば、文在寅大統領もやはり決して無事だと安心はできない」とも述べており、同じ口で「品格」を言うか、と問われるところだ。
もっとも不支持率が支持率を上回った文大統領が退任後、あるいは任期途中で「国民を分断した罪」にでも問われて被告席に座る可能性もあるから、韓国が「品格」を持つには課題が多そうである。
赦免論が出てきて、同時に関心が向けられているのが「朴前大統領を裏切った疑惑」のある「警護官グループの長」だ。同誌が伝えるところによれば、彼は朴槿恵弾劾・訴追のきっかけをつくった友人・崔順実(チェスンシル)氏の大統領府への出入り記録を「1年以上毎日」マスコミに流した疑惑がかけられている。
それまでは崔順実氏は「うわさだけの仮想人物」だった。その出入りの事実をテレビ局に流していたのは「公務上の秘密漏洩(ろうえい)」であり、「朴前大統領を攻撃しようとする意図以外に解釈できない」と同誌は指摘している。
警護官はその後、文在寅政権が進める「“積弊清算機構”で活動して、前政府で核心的役割をした警護官らの“積弊”を暴露、左遷する作業を主導していた」が、結局「兎死狗烹(としくほう)」(ウサギが死んでしまえば猟犬は用なしとなり煮て食べられる=お払い箱)になってしまったという。裏切り者の末路で「品格」を云々(うんぬん)するどころの話ではない。
複数の記事で赦免論の多様な側面を伝えながら、保守誌らしく世論をつくっていこうとの意図がうかがえる企画だ。
編集委員 岩崎 哲





