破産のレバノンに中国が食指、ヒズボラが復興の障害と米ネット誌

◆腐敗の温床ヒズボラ

 レバノンで政治的、軍事的に強い影響力を持つイラン系の民兵組織ヒズボラが6月、中国からのインフラ投資を歓迎することを表明したことが波紋を呼んでいる。米ニュースサイト「インターナショナル・ビジネス・タイムズ(IBT)」は、「中国はレバノン経済を救えるか」と中国の関与に疑念を呈した上で、「腐敗の温床」であるヒズボラの勢力をそぐことが、レバノンの復興の鍵だと指摘した。

 レバノンでは、昨年末から国民生活の困窮などから反政府デモが発生、3月には政府が約12億㌦の債務不履行を発表するなど経済的苦境に陥っている。

 国際通貨基金(IMF)と救済策をめぐる交渉が行われてきたが、打開策は見えていない。研究機関「中東調査会」によると、公的債務は900億㌦と推定され、46億㌦が今年中に返済期限を迎える。このままでは、国民生活がますます立ちいかなくなるのは目に見えている。

 ヒズボラの指導者ナスララ師は、ヒズボラ系テレビ局アルマナルで「中国企業はこの国に資金を投入する用意がある」と指摘、IMFではなく、中国からの資金と投資を元に経済苦境から脱することを主張した。ヒズボラは国軍をしのぐ軍事力を持ち、政治的にも強い影響力を持つが、腐敗の温床ともみられている。

◆欧米の代役になれず

 レバノン政府は、5月からIMFと100億㌦の救済策をめぐって交渉してきたが、ニュースサイト「ニュー・アラブ」によると、「レバノン内の意見の違いから交渉は行き詰まっている」という。

 同サイトによると、2日にディアブ首相が中国の王克倹駐レバノン大使を招き、公共事業、交通機関、観光、エネルギー、環境などの担当大臣との会合を開催した。「会合はレバノン政府と中国が経済協力を真剣に検討していることを示す」としながらも、ほとんどの専門家は、中国が、レバノンを支援してきた欧米やアラブ諸国の代わりとなり得るかについては「悲観的」との見方を伝えている。

 また、米国とEUによるシリアへの制裁もレバノン経済に影を落としている。米国は数千万㌦の経済・軍事支援をレバノンに供与してきたが、昨年12月に軍事支援を一時的に停止した。そのことがさらにヒズボラなどの政府内での影響力拡大につながっているという。

 ニュー・アラブは、レバノンの中国傾斜について「通貨は急落、人口の半分以上は貧困ライン以下の生活を強いられているとみられ、レバノン政府がどこかほかに解決策を求めたとしても驚きではない」と指摘している。ヒズボラ系のアル・アクバル紙は3日、中国の投資計画の詳細について報じた。それによると、政府系企業を含む中国企業が港、道路、発電、ごみ処理などのインフラに最大120億㌦を投資する意向だという。

◆警戒要する関係深化

 一方で、中国の投資計画に対する不信感も根強い。エコノミスト紙の中東特派員、グレッグ・カールストロム氏は、「レバノン側から提供できるものはない。天然資源はない。地中海へのアクセスはあるが、中国は既にエジプト、ギリシャ、イスラエルの港に投資している」とレバノンへの投資から中国が得るものはないと主張している。

 コンサルティング会社オックスフォード・エコノミクスのエコノミスト、ナフェズ・ズーク氏もニュー・アラブで「数字は誇張されており、レバノンが必要とするだけのものを中国は提供できない」と中国依存の危険性を指摘している。

 IBTによると、中国は「レバノンの空白を埋めるつもりはない」(中国共産党中央対外連絡部の東アジア・北アフリカ秘書長)とレバノンへの政治的野心を否定する。しかし、テロ組織ヒズボラと中国との関係の深化には警戒が必要だ。IBTは、IMFの救済策とヒズボラの弱体化を同時に進めるべきだと指摘、中国の関与に否定的な見方を示している。

(本田隆文)