アフターコロナ「地方へ移住希望相次ぐ」との週刊朝日の記事は本当か

◆コロナで物欲が減退

 週刊朝日7月3日号に「見直そう!アフターコロナの人生計画 お金や仕事より大切なもの 地方への移住希望相次ぐ」という記事が出ている。

 都内の大学講師で50歳女性の趣味はいわゆる爆買い。それがコロナ禍で、必需品を買い足す以外、自宅にこもる生活が続いた。従来の生活を振り返り「今思えば、仕事のストレスを全てお金で紛らわせていました。お金があることで、かえって理性のタガが外れた状態になっていたのかなと思います」

 東京・吉祥寺の61歳の男性は、緊急事態宣言下の5月、38年間勤めたテレビ局の早期退職を決めた。この間「在宅勤務を通じて、自分がしたいと思ったとおりのことができるのは、こんなにも幸せなのかと気づきました。今後の人生は、関心を持ったテーマについて勉強したり、街で気になる場所を訪ねたりすることに時間を割きたい」と。2人の心境の変化が綴(つづ)られているが、両人が地方移住を検討しているという話はない。

◆余力ない地方の雇用

 ほかに茨城県つくば市で2011年、IT関係の会社を起こした31歳の男性が、この間、全ての打ち合わせをウェブ会議に移行できたことで、故郷の新潟に転居し、そこで仕事が継続できるようになったという話が出ている。

 また5月31日に38道府県の計138団体が名を連ねた「オンライン全国移住フェア」があり、全国から173人が参加したことを紹介。オンライン参加者の声の内容は明らかにしていないが、「コロナをきっかけに、移住を考えている方は確実に増えていることを実感しました」という主催者の話を載せている。

 しかし、移住の動向については、先の男性の新潟転居の例と移住フェア主催者の声だけ。関心は高まっているとしてもこれで「地方への移住希望相次ぐ」と結論し、大見出しを立てるにはかなり無理があるのではなかろうか。

 同記事の別枠で、思想家の内田樹氏が「感染症はこれからも繰り返し到来します。そして、そのつど都市住民は感染リスクにさらされ雇用が失われる。都市でなければできない職業に就く人以外は、しだいに地方離散シナリオを選択する人がこれから増えてゆくだろうと思います」と話すが、どうか。

 中世の西洋は何度かペスト禍に襲われた。ロンドンなどの大都市の衛生状態が極めて悪く、大都市発のペストということは明らかで、人々は田舎に退去した。しかし、今日、日本では、大都会と地方の経済・社会生活は連動し維持されており、一方的な地方離散シナリオは考えにくい。

 大都会に職がなければ、地方に求職に応える余力があるとは思えない。コロナ禍で職がないからという理由で地方移住を希望する人は多くはないだろう。農業を指向しても、農家は今、都会に出荷する農作物がはけず、それを腐らしているという現状がある。

◆高齢者の居住が続く

 コロナ禍で、移住の流れが新たにできるかどうかには疑問符がつく。筆者は2年前、移住関係で取材し、本紙にも掲載したが、この20年間、東京と地方との間に人の流出、流入の差がさらに大きくなっている理由を三つ挙げた。

 改めてまとめると①従来、退職後、故郷に帰り悠々自適の生活を送った高齢者だが、今日、田舎に知り合いはおらず、医療格差もあり、帰郷しなくなった②子育てや子供たちの進学問題がネック。地方に工場長として赴任する男性の話で、それを機に家族の移住を考えたが、進学のための中・高校がなく移住を断念した③結婚しない人が増えた。東京の大学を卒業した女子大生は当地で就職する場合が多い。東京は出生率の低さも日本一。

 コロナ禍で、大都会から地方への移住志向の高まりが一時あるかもしれない。しかし、地方への移住者の増加を確かなものにするには、①~③を覆し、人々の生き方を変更させるだけの制度的な保証を地方の自治体が実現しなければならない。

(片上晴彦)