日本のコロナ対策の“奇妙な成功”の「ファクターX」を追った新潮
◆断然少ない死亡者数
世界保健機関(WHO)のテドロス事務局長は、「日本は成功例だ」と新型コロナウイルス感染症対策を評価した。首をかしげる人は多いと思う。何が成功しているのかと。特にメディアは安倍政府の対策の一つ一つにケチを付け、あたかも日本政府のコロナ対策は失敗しているかのような報道ぶりだったから、なおさらそうだ。これを海外から見れば、まさに「ミラクル」と映る。
これは以前にも指摘したことだが、海外メディアの多くが現地報道を引用したり参考にして報じる。日本メディアのほとんどが「安倍批判」をしている状況だから、おのずとコロナ対策にも批判的になる。ところが、圧倒的に感染者数、死亡者数が桁違いに少ないのを見れば、それが「奇妙な成功」であれ、対策は一応間違ってはいないことになる。しぶしぶながらも、認めざるを得ないのだ。日本メディアも野党も常日頃から、「政治は結果が全て」と言っているではないか。
◆抗体検査が武器に?
それはいいとして、だが、本当になぜ日本は上手(うま)くいっているのか。週刊新潮(6月4日号)が特集の記事でそこに迫っている。見出しには「山中教授の『ファクターX』を追え!」とある。ノーベル賞受賞者の山中伸弥・京都大教授は「そこに絶対何かある」として「X」と名付けたアレだ。
記事では、マスク着用の習慣、キスやハグをしない、手洗い・うがいの励行、肥満の少なさ、BCG接種などを「浜松医療センター院長補佐の矢野邦夫氏」に語らせているが、これらはさんざん言われてきたこと。
「慶応大学医学部の金井隆典教授」は同誌に、「日本人は新型コロナウイルスに抵抗力を持つ遺伝子を獲得しているのでは、という仮説を立てることも可能」と語る。「HLA(ヒト白血球抗原)」が重症化リスクの違いの原因ではないかと「仮定することができる」というのだ。これは「医学生にも難解」というから、週刊誌の記事で一般読者が理解するのは難しいが、ともかく「免疫の働きの差であり、HLAの差ではないか」というのである。
また同誌は「第2波から命を守る武器」として「抗体検査」を挙げている。抗体とは体内に入った異物にある抗原に取り付いて、これを除去する分子だ。「充分に抗体ができれば二度とコロナに感染しない」ということになり、「抗体を保有していれば、社会経済活動を再開させるための指針にもなる」というわけだ。
こうした免疫を日本人は獲得しているのではないか、というのが前出の矢野氏である。「新型コロナウイルスに似たウイルスに感染して獲得した免疫が効力を発揮しているのかもしれません。これを“交差免疫”と呼びます」と語る。
この免疫があるかないかを見るのが抗体検査で、「政府も重要性を理解したのか、6月以降、新たに東京・大阪・宮城の3都府県合計で1万人規模の抗体検査を実施することを発表している」。
ところが、政府が「理解する」かなり前から抗体検査を実施してきた医療者がいる。小紙が4月22日付で紹介した「エミーナジョイクリニック銀座の伊東エミナ院長」だ。伊東院長が使っているコロナウイルス抗体検査キット「Wondfo」では「15分で判定」できるという。新潮は抗体検査を行っている事例を紹介していないが、こうした事例も見落とさないようにしてほしい。
◆新生活様式に欠点も
われわれ日本人は「新しい生活様式」を唯々諾々と受け入れ実践しようとしているが、それが招くマイナス面に目を向けたのが「精神科医の和田秀樹氏」だ。同誌に「デメリットが大きすぎます」と語っている。
「新生活様式」を守っていくと、関心が薄れ、前頭葉への良い影響が減るなど肉体的影響がある一方で、「不要不急とされている文化や娯楽が人間の心を豊かにする」のに、それを制限しては「文化を破壊し、人の心と体の健康を損なう」と危惧を示す。これも一面納得だが、要は程度問題。感染と経済・文化活動のバランスを取れ、ということだと受け取っておこう。
(岩崎 哲)