検察定年問題で権力闘争に乗ったと内閣いさめる「日曜報道」橋下氏
◆自粛下のネット運動
緊急事態宣言発令や解除など、新型コロナウイルスに世論の関心が集中している。その陰で起きた政治波乱が、検察官の定年を引き上げる検察庁法改正案と黒川弘務東京高検検事長の辞職だった。
1月に黒川氏の定年を8月まで延長した閣議決定をしてから、「森友・加計」「桜を見る会」問題などを追及してきた野党は、疑惑が捜査に及ばないように「政権に近い」と見た黒川氏を同法案成立により次の検事総長に据えようとしていると批判してきた。
大型連休明けにインターネット交流サイト(SNS)のツイッターで「#検察庁法改正案に抗議します」とのネット運動が急拡散し、元検事総長ら検察OB14人が政府に反対意見書を提出する異例の展開になり、安倍晋三首相は今国会の成立を断念。すると黒川氏は緊急事態宣言中の賭けマージャンを週刊誌に書かれて辞職、軽い「訓告」処分で騒動は鎮静化しつつある。
しかし、安倍政権は支持率に響いた。TBS「サンデーモーニング」(17日放送)は、同法案をめぐるSNSや国会での与野党攻防などを伝える中で、司会の関口宏氏が「コロナがなければ大きなデモになっている勢いだ」と述べた。その可能性もあろうが、コロナがなければ今ごろ東京五輪へ開幕フィーバーだ。
SNSに火が付いたのは、緊急事態宣言で大型連休が「ステイホーム」となった5月になってから。むしろ、外出自粛のネット依存といい、黒川氏の辞任理由といい、感染対策で野党の協力を要する首相の素早い法案採決断念といい、コロナ禍を背景とした顛末(てんまつ)だったと言えよう。
◆反発する検察関係者
同法案をめぐる問題で白熱した議論を展開したのは、17日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」だ。レギュラー出演者の橋下徹氏(弁護士、元大阪府知事・市長)、元東京地検特捜部副部長の若狭勝氏(元衆院議員)、ジャーナリストで国家基本問題研究所理事長の櫻井よしこ氏による三つ巴の討論だった。
まず若狭氏は、黒川氏定年延長の閣議決定に「政治的な理由にもならない卑劣なこと」だと述べるなど、批判感情を隠さない。検察出身者14人の反対意見書といい、黒川氏定年延長と同法案には検察内に強い反発と厳しい批判があることを反映していた。
しかし、黒川氏定年延長について「もともとアイデアは法務省・検察庁からきている」と櫻井氏は指摘し、法務省から法相、内閣法制局、人事院の了承を得て上がったものを官邸が受けたと、時系列で説明した。これに若狭氏は、「実質的発案者は官邸で間違いない。形の上では法相が上申した」と反論した。
橋下氏は検察庁法15条に検事総長、次長検事、検事長の任免は「内閣が行う」と書かれた点を強調。「普通の法律のルールに従えば林(眞琴名古屋高検検事長)さんが次の検事総長になると世間はみな思っている。ルールを変えて黒川さんを検事長に残すなら、法務省・検察庁の提案ではなく内閣の責任で押すんだと言わなければ」と訴えた。
その内閣による1年内刻みの定年延長人事の仕組みが同法案に盛り込まれたことに、検察OBは「捜査への政治介入の恐れ」を懸念したわけだが、若狭氏は政界捜査の経験から、「検察も人の子だ。ポストや定年延長が頭をよぎる」と吐露する。政界捜査が鈍る恐れはあり得るだろう。
◆独立性を保つ定年を
さらに橋下氏は、稲田伸夫検事総長から黒川氏への8月禅譲説に触れ、「法務省・検察庁から人事案が出てきたなら、検察内部の権力闘争だ。安易に乗っかってはダメだ。それを止めるのが政治だ」と、任命権のある内閣の責任を問題視した。
世の中は高齢化社会だ。国家公務員の定年引き上げの流れもあり、検察庁法改正案は今後も焦点となるだろうが、政権と適切な距離を取り、検察の独立性を保ち得る定年の在り方が示されるべきだろう。
(窪田伸雄)