コロナ治療薬 感染拡大の抑制に貢献したい
厚生労働省は新型コロナウイルス感染症の治療薬として、抗ウイルス薬「レムデシビル」を緊急時に審査を簡略化できる「特例承認」に基づいて薬事承認した。国内初の治療薬で、既に供給が開始され、医療機関に到着しているという。副作用に注意しつつ活用すべきだ。
「アビガン」も今月承認へ
薬の承認は通常、1年ほどかけて審査が行われる。特例承認は、緊急の使用が必要で、かつ外国で販売が認められている場合に審査手続きを大幅に短縮できるものだ。
レムデシビルは、エボラ出血熱の治療を目的に米製薬会社が開発したが、臨床試験(治験)でウイルスの増殖を抑えるなど新型コロナ感染者にも一定の効果が見られた。薬事承認は感染者はもちろん、感染の危険にさらされながら新型コロナと闘っている医療従事者にとっても朗報だと言える。
もっともレムデシビルをめぐっては、副作用として急性腎障害や肝機能障害、低血圧などの可能性が指摘されている。投与する上で慎重さが求められるのは当然だろう。厚労省は、重症者に効果が期待される上、確保量も限られているとして、投与は人工呼吸器などが必要な重症患者に限定した。
現在のところ治療薬開発の主流は、別の治療目的で承認された抗ウイルス薬の転用だ。安倍晋三首相は、国産の抗インフルエンザ薬「アビガン」も新型コロナの治療薬として今月中の薬事承認を目指す方針だ。レムデシビルと同様にウイルス増殖を抑える働きがあり、主に軽症者への投与を想定している。政府は安定供給体制の確立を進める必要がある。ただアビガンにも胎児に奇形が生じる副作用があり、妊婦らには投与できない。
アビガンは8日時点で計44カ国に供与することで合意しており、最終的には80カ国程度まで増やすという。既に第1弾としてエストニアに供与された。国産の治療薬で世界的な感染拡大の抑制に大きく貢献したい。
このほか治療薬の候補としては、喘息向けの吸入ステロイド薬「オルベスコ」や関節リウマチ薬「アクテムラ」などが挙げられる。2015年にノーベル医学生理学賞を受賞した大村智・北里大特別栄誉教授が開発に貢献した抗寄生虫薬「イベルメクチン」もその一つだ。こうした既存薬を最大限に活用しなければならない。
一方、新規開発に着手した国内の製薬会社もある。回復患者の血漿中の抗体を利用したり、次世代治療薬の「核酸医薬」の技術を応用したりするという。既存薬の転用に比べれば時間はかかるが、より高い効果が期待できよう。
ワクチン開発も世界中で急ピッチで進んでいるが、早くても1年から1年半はかかる。日本の製薬会社も年内の治験開始を目指している。一日も早い実用化が求められる。
国際協力を強化せよ
首相はこのほど行われたトランプ米大統領との電話会談で、新型コロナへの対応に関し、治療薬・ワクチンの開発に向けて緊密に連携していくことで一致した。日本は国際社会との開発協力を強化すべきだ。