雇用改革を「待遇下げる口実にするな」と朝日以上に賃上げ求めた産経
◆経営側にくぎを刺す
今年の春闘がスタートした。安倍政権の経済政策「アベノミクス」を支え、6年連続の賃上げを実現してきた春闘は今年、どんな展開をたどるのか。
今春闘について各紙社説の見出しを掲げると、次の通りである。1月22日付日経「雇用のあり方をめぐる突っ込んだ議論を」、24日付読売「経団連春闘方針/賃上げの勢いを維持したい」、朝日「今年の春闘/着実な賃上げが前提だ」、産経「日本型雇用の改革/待遇下げる口実にするな」、29日付毎日「今年の春闘スタート/『非正規、中小』格差是正を」、30日付東京「春闘スタート/賃上げは成長の基本だ」――。
内容は、列挙したように、日経が雇用改革に重点を置いた論調にした以外は、各紙とも賃上げを強調する論調だった。リベラル系紙は想像がつくとして、保守系の読売や産経もが「積極的な」あるいは「十分な」賃上げを求め、特に産経の見出し「待遇下げる…」はリベラル系紙以上に経営側に対して強い注文を突き付けるもので予想外であった。
産経はもちろん、経団連が今春闘での経営側の交渉指針となる経営労働政策特別委員会(経労委)報告で、年功賃金などを柱とする日本型雇用慣行の変革を求めたことを「注目される」と評価。企業が持続的に成長するには雇用制度の改革は欠かせないとして、硬直的な雇用慣行を見直すことは「理解できる」とした。
ただ、同紙はそれ以上に、「しかし、そうした改革を従業員の待遇を切り下げるリストラの口実にしてはならない」とくぎを刺したのである。
具体的には、「企業が雇用慣行を見直す場合には、賃金などの人件費総額を減らさないなどの原則を労使で確認する必要がある」と強調。その上で、職務の成果で配分を決めるなどの取り組みが重要だ、というわけである。
◆毎日は格差是正強調
リベラル系の朝日は、新卒一括採用や長期・終身雇用、年功序列賃金などを特徴とする「日本型雇用システム」が転換期を迎えていることを経団連報告書が強調していることに対し、「経済環境や技術の変化が、雇用のあり方にも影響するのは否めない」としながらも、「ただ、そうした『転換』を名目に、働き手への分配や処遇を軽んじることは許されない」とした。同紙は採らなかったが、産経が見出しにした内容である。
毎日は雇用改革にはあまり触れず、専ら、見出しのように、賃上げにより非正規や中小企業と大企業の労働者との格差是正がどこまで進むかが焦点と強調した。
同紙が労働者側に立ち、経営側に厳しいのは、大企業で昨年まで2%超の賃上げが6年続いているにもかかわらず、「非正規や中小の労働者は、『戦後最長』とされる景気回復の恩恵をまったく実感できていない」からである。
これは少し誇張が過ぎており、より正確には「実感が乏しい」であるが、内部留保が2018年度に463兆円と7年連続で過去最高となったのに対して、「収益に対する人件費の割合を示す労働分配率が四十数年ぶりの低水準」という状況にあっては、同紙の主張にも一理あると言える。
◆印象が薄かった読売
東京は毎日と内容はほぼ同じ。見出しに掲げた「賃上げは成長の基本だ」にも異論はない。ただ、同紙は経団連の中西宏明会長が日本型雇用制度を見直す姿勢を鮮明にし、春闘交渉の優先テーマとするよう提案したことに対して、「春闘で暮らしに直結する賃金問題を二の次にすることはあり得ない判断だ」と指摘し、「直ちに方針を改めるよう経団連に求めたい」としたが、経団連は賃金問題を二の次にしているわけではなく、経団連が方針を改める必要もないであろう。同紙の曲解である。
読売の「賃上げの勢いを…」は、見出しも内容も尤(もっと)もで正論を展開していたが、産経のインパクトのある見出しや内容に比べ淡々としていて印象が薄く感じられてしまった。
(床井明男)