日本文化が好きな韓国人を特集するも彼らの葛藤に触れぬNW日本版
◆混在する反日と親日
「国交正常化以降最悪」と言われる日韓関係。両国の間には政治、外交、経済、防衛などさまざまな分野で対立がある。韓国では「反日不買運動」が行われ、報道を見る限り、国を挙げて日本を否定、攻撃しているようにすら見える。
そんな社会の空気の中で、あえて「私は日本の○○が好き」と公言する人々がいる。勇気の要ることだと思いがちだ。なぜなら、今の韓国では少しでも日本の肩を持つ発言をすれば「土着倭寇(わこう)」「親日派」のそしりを免れないからだ。
しかし、親日派と誰かを罵倒する当人が日本アニメの熱烈なファンだったり、不買運動の最中、日本旅行を楽しむ韓国人もいる。当然の話だ。韓国全体が100%「反日」であるわけがない。反日には濃淡があり、無関心層もいる。むしろ一人の中に反日と親日が混在している場合がほとんどだ。
ニューズウィーク日本版(2月11日号)が「私たちが日本の○○を好きな理由」という特集を組んでいる。前週号の「中国人編」に続く第2弾だ。
◆特定の分野だけ好む
登場するのは短歌を詠むタレント、四国巡礼の先達(案内人)、ソウルの和風ゲストハウスの主人、東京の夜のDJ、ファッションデザイナー、そば打ち職人、韓国に残る和風家屋愛好者、「鉄ちゃん」(鉄道ファン)、日本パン職人、などだ。
読者はなぜ彼ら韓国人が日本の文化に興味を持ち魅せられていったのか、に関心が向かうことだろう。そして、このご時世、彼らは日本のことをどう思っているのか、を聞きたいと思うのがごく普通の反応だ。だが、この特集にはそれがない。もし、彼らが日本文化を礼賛することを期待して本誌を手にすれば、それは裏切られる。
タイトルをもう一度よく見てほしい。「日本の○○が好き」と言っている。つまり特定の分野が好きなのだ。アメリカは偉そうにしていて虫が好かないがアメリカンフットボールは好きだ、とか、フランス人は鼻持ちならないがワインは素晴らしい、とか、人間の反応は一様ではない。
しかし、料理や生活様式はその民族が長い歴史をかけてつくり上げてきたもので、民族性や民族文化と分離して考えることはできない。「○○が好き」というとき、普通、それが生み出されてきた背景、文化、歴史などにも関心が行くものだ。でなければ、そのものを深く理解できず、上っ面だけを愛(め)でた薄っぺらなものになる。
ここに取り上げられている韓国人は表面的な理解だけで満足している人々ではない。その道を極めようとし、その基礎の上で、ある人は韓国風に発展させようとまでしている。その彼らが日本の民族性や文化に対してどう思ったのか、その点がこの特集には欠けている。
そして、他国の文化を認識するときには、自国の文化との比較でよりくっきりと違いが分かってくるものだ。韓国文化と日本文化のここが違うという部分を分からなければ、そば打ちにしても、歌詠みにしても、神髄には触れられない。そのとき、彼らは自らの歴史と文化で出来上がった「韓国人」との衝突があるはずで、記事はその葛藤には触れておらず、物足りない。
紹介されている韓国人たちには、それまでの反日教育や反日報道で培ってきた対日観、日本人観があるはずだ。彼らの理解するその日本人がどうして彼らを魅了する文化や料理、生活様式を生み出したのかについて、きっと葛藤し探究したことだろう。
どうみても「日帝時代、朝鮮人を痛めつけ、殺した悪辣(あくらつ)で悪魔のような日本人」と、穏やかで優しく細やかな文化を生み出している日本人にはギャップがあり過ぎる。どこかに嘘(うそ)があると思うのが思考の流れの行き着く先なのだが…。
◆相互理解助ける活動
いずれにせよ、日本文化に魅了された韓国人がいることは今後の相互理解を助ける。彼らの事業や活動が順調であることを願う。
(岩崎 哲)