中国・新型肺炎発症地の映像から情報隠蔽を疑わせた「バンキシャ」

◆武漢市の病院を撮影

 中国・武漢市で発生した新型コロナウイルスによる肺炎の発症者が世界各地で確認され、当初予想されたより感染が拡大している。わが国では16日に厚生労働省が武漢市から帰国した男性の発症を発表したのが最初で、19日放送の各報道番組が取り上げる中で中国の情報隠蔽(いんぺい)を疑った。

 日本テレビ「真相報道バンキシャ」は、「おととい銀座へ」行き、バスから降りてきた中国人団体観光客から武漢市から来た中国人の声を拾っていた。春節には多くの中国人が観光に来るといった他愛もないやりとりだったが、番組の意図は武漢から来ている、ということだろう。

 「友達は27日に来る」と話した武漢市の観光客もいたが、23日に同市は市民の移動を制限する「戦時的措置」に踏み切ったので、どうなるか分からない。春節の時期に東京・銀座で中国人観光客といえば、つい2~3年前は、“爆買い”をカメラは追ったものだが、何とも不安な展開になってしまった。

 番組は、武漢市の住民からインターネット交流サイト(SNS)を通じて入手したという「2日前の武漢市内」の映像を放映することで、事態が既に深刻化していた様子を伝えていた。昨年12月上旬に発症が始まったとされる海鮮市場は、全てシャッターが下ろされて完全に閉鎖されており、市内の病院の裏と思われる敷地内の建物の壁には「発熱外来」と矢印付きの看板があり、矢印の方向の奥の目立たない場所に「発熱・疱疹問診」と書かれた「真新しい看板」が掲げられ、開いている扉の内側の室内に防護服の職員が映っていた。

 また、医師が防護服で診察している写真や罹患者が送られる特別病院などが映され、緊張した現場報告になっていた。動画は17日に映されたと思われるが、19日時点でも新型ウイルスの検出62人、死亡2人という武漢市の発表が、かなり抑制した大本営発表と暗示するに十分だった。

◆英チーム推計に注目

 この動画が映された頃、わが国で初の発症者について記者会見した厚労省の新型肺炎に対する認識は、「感染拡大のリスクは低い」というもので警戒感は高まっていない。もっとも、感染数も数十人で、人から人への感染の証拠はない―といった中国側の情報では、感染拡大は読み取れなかっただろう。

 しかし、英インペリアル・カレッジ・ロンドンの研究チームは、12日現在、既に武漢市では推計1723人が感染しているとホームページで発表し、同番組や他の番組も取り上げていた。このような推計を中国から遠い英国は独自に情報を分析でき、近くて人の往来が多いわが国が行わないのは危機管理意識の違いだろうか。

 フジ「日曜報道ザプライム」に出演した佐藤正久参院議員は、「今回、一番懸念を持っているのは中国の情報公開だ」と述べ、中国政府が感染の発表を武漢市だけに限定していたことを問題視した。もとより中国人自体が中国政府を信じていない。「バンキシャ」やTBS「サンデーモーニング」は、中国のネット上のやりとりに当局の隠蔽を疑う声などを取り上げた。

◆習氏指示で当局一転

 「バンキシャ」に出演したコロンビア大学医学部教授の加藤友朗氏は、冷静な言い回しながらも「ある程度これは経(た)っているんじゃないかという気がちょっとしている。中国のSARS(重症急性呼吸器症候群)のときの初期の報道が必ずしも正しくなく、遅れて報道していたこともある」と指摘。確かに12月から1カ月半も経っている。

 案の定、20日に習近平国家主席が感染を抑え込めと指示し、22日に国家衛生健康委員会が記者会見して情報を開示、発表される感染者数も急に増えてきた。最高権力者の指示の威光もあってか、武漢市は携帯アプリで市内映像を中継し、交通機関が止まり市民の移動を制限した“証拠”を発信している。感染拡大と目下の春節大移動が心配である。

(窪田伸雄)