SNSで過激なコメントを発信する中高年の「正論症候群」を分析した朝日
◆ほぼ“中高年専門誌”
週刊誌はますます“中高年専門誌”に近づいているようだ。週刊ポスト(1月31日号)が表紙に「今号から文字が大きく読みやすくなりました!」と打ち出した。これまで1段12文字だったものが11字詰めになって、その分、文字が大きくなり、読者に“やさしく”なっている。読者の視力にまで気を遣って購読をつなぎ止めようとの涙ぐましいまでの努力である。
中身もほとんどが中高年向けの内容だ。「健康診断は嘘をつく」は“総力取材10ページ”の力作だし、「お金の手続き書き方完全マニュアル」では年金繰り上げ請求書、相続・自筆証書遺言、等々の書き方指南だ。「50歳からの筋トレ入門」や「美熟女が集う『性の溜まり場』最新事情」など、もはや20代30代読者は眼中にない。
同じ中高年相手の話題でも週刊朝日(1月31日号)となると、取り上げ方がちょっと気取っている。「認知症に間違われやすいシニアの発達障害」「シニアの『てんかん』の交通事故リスク」など、社会問題化した話題を抑えており、一応週刊誌の体面を保っている。
◆欲求不満のはけ口に
中でも「私は正論症候群」は興味深い。最近、自分が正しいと思い込んだことを人に押し付け、また、それをツイッターやブログに書くなど、SNS(ソーシャルネットワークサービス)で拡散する人が増えているという話だ。書いたのは「ライフジャーナリスト赤根千鶴子」。
「心理学者の榎本博明」が「ネット世界では誰もが自分の思ったことを一方的に発信することができます。それに慣れていくと自己中心的な視点に凝り固まって、相手の視点に立って想像力を働かせることができにくくなります」と説明する。
誹謗(ひぼう)中傷、ヘイトなどのネットの書き込みのほとんどは、中高年に多いという。動画配信サイトの閲覧でもその傾向は強い。小紙は韓国で「反政府親日動画にはまる中高年」という記事を載せたことがあるが、日本もほとんど同じ傾向だ。中高年が熱心にSNSで発信し、過激なコメントを付けるのも彼らなのである。
「正論振りかざしの裏側には『フラストレーション』もある」と指摘するのは「明星大学准教授の藤井靖」だ。日常の欲求不満や不全感が高じると「異常な攻撃性を出してくる」(榎本博明)という。これが簡単に吐き出せるのがSNS。書くのは一方的だから、反論しても議論にはならない。お互い言いっぱなしになってかみ合わず、不快感だけが残る。
どうしたらいいか。藤井靖は「エンプティ・チェア(空の椅子)」ということを言う。「逆の立場になって椅子をすわり直し、向かいの椅子に対し反論する、というイメージをしてみて下さい」とアドバイスした。要するに自分を客観的に見る、ということだ。
もともと、デジタルネイティブではない中高年が慣れないSNSをやるからルールや掟(おきて)を無視して暴走する。無免許運転のようなものだ。正しく操れば便利なものだが、間違って使えば“凶器”にもなる。中高年をこうした切り口で社会現象とかみ合わせて取り上げているところが朝日らしい。
◆台湾総統選の“奇跡”
ポスト誌に戻ると、昔の週刊誌らしい記事がないわけではない。かつて週刊新潮の辣腕(らつわん)編集者だった門田隆将が書いた台湾総統選の現地ルポだ。門田は「この勝利は奇跡だった」と興奮を隠さない。もっとも、劣勢が伝えられた蔡英文総統が6月からの香港事態で急激に息を吹き返し、それ以降、追い風に乗って勝利はほぼ確実視されていたのだから、どこが「奇跡」かと首をひねりたくもなる。
だが今回のキーワードの一つ「天然独」の説明は総統選の特徴をよく伝えている。戒厳令解除(1987年)、李登輝総統の“静かなる革命”を経て、今や自由や民主主義の享受が当たり前になった。そこに生まれ育った世代が天然独だ。その彼らの意識を変えたのが香港事態で、門田は彼らが「蔡英文の支持に猛然と向かったのである」と書く。これが800万票を超える“大勝利”につながった。興奮するのも分かる気がする。(敬称略)
(岩崎 哲)