「第1段階」合意で中国の構造改革先送りに米国を厳しく叱咤した産経
◆構造問題が最も重要
「この合意を中国の構造改革につなげよ」(日経17日付)、「米中部分合意/対立終結への道険しく」(東京)、「米中貿易合意/構造改革を進めるには」(朝日18日付)、「米中貿易協議/米国は構造改革を促し続けよ」(本紙)、「米中貿易協定/本丸は中国の構造問題だ」(産経20日付)、「米中が貿易合意に署名/対立の『核心』は依然残る」(毎日)――。
米中が貿易協議での「第1段階」で合意文書に署名したことを受けて、各紙が論評した社説の見出しである。
見出しからも想像できるように、朝毎なども含め各紙とも中国の構造問題を、大きな課題あるいは核心と捉えていたのは意外であった。
もっとも、社説の内容には大きな違いがあった。これも意外だったが、米国に対して最も厳しい論調なのが産経だったのである。
産経は今回の合意について、一時休戦であり、合意の履行状況や「第2段階」の協議次第で再び米中摩擦が激化する事態も併せて想定しておかなくてはならないと指摘しながら、「問題は、米大統領選を控えたトランプ政権が目先の成果にこだわり、中国の不当な補助金や国有企業の優遇を排する構造問題を第2段階に先送りしたことだ」と断じた。
社説の見出しにした「これこそ米国が迫るべき本丸」であり、これに中国は共産党の独裁体制を支える国家資本主義が揺らぎかねないために抵抗しようが、「それでもここに切り込めなければ、米中協議は本質的に意味をなさない」というわけである。
◆市場ゆがめる恐れも
また、トランプ氏が第2段階合意を大統領選後に持ち越す可能性にも言及していることに対しても、「よもや輸出拡大だけで満足というわけではあるまい」とし、「米国には、迅速かつ確実に真の成果を得るよう努めてほしい」と注文を付ける念の入れようである。
この点では、本紙も第2段階の本格協議が大統領選後にでもずれ込めば「中国の思うつぼである」として、トランプ氏は強い姿勢を貫いて中国に構造改革を促し続ける必要を説いている。
産経がさらに「見過ごせない」としたのは、中国が今後2年間で農産品や工業品、エネルギーなどで対米輸入を2000億㌦増やすことで、「典型的な管理貿易になった」点である。中国が米国からの輸入を無理に増やそうと、第三国からの輸入を減らす恐れはないか。「世界1、2位の経済大国が需給を無視して市場をゆがめれば、影響は世界に及ぼう」との懸念である。
これについては朝日も同様で、2017年の実績と比べて中国の輸入額を平均で1・5倍にするもので「現実的な規模とは言えず、他の国との貿易もゆがめかねない。政府の統制が強まれば、自由貿易の原則に反する」とした。
◆WTO活用説く朝日
朝日が産経と違ったのは、中国の産業補助金の問題が先送りになったことについてである。産経は第2段階で「迅速かつ確実に真の成果」を求めたのに対し、朝日は「米国は、自身も参加して補助金の規制強化の議論が進むWTO(世界貿易機関)の場で、着地点を探るべきではないか」というスタンスである。
「中国の構造改革が必要との問題意識は、日欧にも共有する。規制強化の方向で日米欧は合意しており、加盟国に同調を呼びかけていく。中国も『国際的な貿易ルールづくりに積極的に参与する』との立場で、拒否はできないだろう」
同紙はこのように説き、正論でもあるが、国際的な貿易ルールづくりにおける中国のこれまでの姿勢から、また、ましてや米中摩擦が技術を含めた覇権を争う様相を強めている中でもそう言えるのかどうか。
日経は経済紙の社説としては教科書的で意外性もなく物足りなさが残った。各テーマに機敏に社説を出していた読売に今回論評がなかったが、どういうわけなのだろう。
(床井明男)