19年の世界 米中のイデオロギー対立激化
東西冷戦の象徴「ベルリンの壁」が崩壊したのは1989年11月9日。同年12月3日にはブッシュ(父)米大統領とソ連のゴルバチョフ書記長が地中海のマルタで会談し、冷戦の終結を宣言した。
あれから30年。アジアでは中国が軍事・経済両面で台頭し、安全保障や通商、人権などの問題で米国との対立を深めて「新冷戦」の様相を呈している。
強硬姿勢貫くトランプ氏
トランプ米大統領は今年も、覇権拡大の動きを強める中国に対して強硬姿勢を貫いてきた。ロシアとの中距離核戦力(INF)全廃条約を破棄したのも、条約締約国ではない中国が、中距離ミサイルを多数配備し、アジア太平洋地域での軍事力強化を目指しているためで、妥当な判断だと言えよう。
また宇宙空間の軍事利用を進める中国などに対抗するため、今月には米軍の6番目の独立軍として「宇宙軍」を発足させるための「国防権限法」が成立。宇宙における米国の優位性を確保する必要がある。
通商面では昨年に引き続き、知的財産権侵害を理由に中国からの輸入品の多くに制裁関税を発動。次世代通信規格「5G」をめぐる中国との覇権争いも激化している。
中でも今年目立ったのは、自由と民主主義、人権などイデオロギーに関する対立だと言えよう。発端となったのは香港情勢だ。香港では逃亡犯条例改正に民主派が反対し、デモ隊と警察との衝突が相次いだ。
背景には、中国の習近平政権が、香港に適用される一国二制度を形骸化させ、政治的締め付けを強めようとしていることがある。これに対し、米国では11月、香港の自治と人権を守るための「香港人権・民主主義法」が成立。中国を牽制(けんせい)した。
さらに今月、米下院では中国新疆ウイグル自治区のウイグル族への弾圧に対応を求める法案が可決された。ウイグルでは100万人以上のウイグル族が強制収容所で不当に拘束され、当局による虐待や拷問、殺人などが横行しているという。
中国による人権弾圧は断じて容認できない。ペンス米副大統領が10月の演説で、中国に軍事面や人権問題を含め包括的に圧力をかける姿勢を示したのは当然だろう。
一方、これまで旧ソ連とロシアの脅威に対抗することを主眼としてきた北大西洋条約機構(NATO)は、今月ロンドンで開かれた創設70年記念の首脳会議で中国の脅威について初めて討議した。
中国はシルクロード経済圏構想「一帯一路」を推進。欧州でも、欧州連合(EU)加盟国の半数以上が一帯一路に関する協力文書に署名した。だが一帯一路では、中国が途上国を借金漬けにして支配下に置くなどの覇権主義が目立つ。欧州は中国の身勝手な振る舞いを許すべきではない。
米は普遍的価値観を守れ
米中対立の中ではイデオロギーの占める部分も大きい。米国は、共産党一党独裁体制を堅持する中国との新冷戦に打ち勝ち、自由と民主主義、人権、国際ルールなどの普遍的価値観を守り抜かなければならない。