与党の税制改正論議に「また企業優遇なのか」と批判する朝日の“不公平”
◆少額投資優遇触れず
2020年度の税制改正に向け、与党が本格的な論議を始めたが、朝日が24日付社説で「また企業優遇なのか」(見出し)と噛(か)み付いている。
9月に自民税制調査会会長に就任した甘利明氏が、成長重視の観点から、減税措置などにより、企業にため込んだ内部留保を使った投資を促す検討をするからである。
「消費税は10月、税率が10%に上がった。所得税は2020年から給与所得控除などのしくみが変わり、収入の多い人はおおむね負担が増す。対照的に企業にはさらに減税する。納得できない国民は多いだろう」というわけである。
自民税調が検討するのは、大企業が新興企業を合併・買収(M&A)する際、法人税を軽減する措置や、次世代通信規格5G投資への支援策など。甘利氏は「貯蓄から投資へ」を旗印に個人に対しても、積み立て型の少額投資非課税制度(つみたてNISA)で、非課税で積み立てられる期限の延長も目指すとしている。
というわけで、優遇措置の検討は企業だけではないのだが、朝日はつみたてNISAには全く触れず、この社説を読む限りでは、優遇は企業だけ、との不公平感を煽(あお)り、同紙が投げ掛ける、「自民党の甘利明・税制調査会長は『未来を先取りし、公正で公平な税制を築く』と言うが、本当にそうなるだろうか」との疑問を正当化する文脈になっている。作為的である。
◆制度設計には問題も
この点、つみたてNISAや個人型確定拠出年金(イデコ)の拡充検討にもきちんと言及する読売、日経(ともに24付社説)の方が、やはり、公平でまともであろう。
その両紙の論調だが、読売は冒頭、「企業がため込む資金の活用は、日本経済の再生に欠かせない。税制で後押しする有効策を練ってもらいたい」と強調するように、「民間に眠っている資金を投資に誘導していく。その方向性は評価できる」とした。
企業の内部留保は18年度末で460兆円超。このうち、現預金は約240兆円に上り、12年度より約50兆円も増えている。読売は08年のリーマン・ショック後、トヨタ自動車や日立製作所などの主要企業でさえ、巨額な赤字を計上したため、「景気の急変に備え、現金を確保する企業が多いのだろう」と理解を示しつつも、「企業の利益が、賃上げや成長分野への投資に回る好循環を実現しなければ、民需主導の自律的な成長は望めない」と強調。自民税調がM&A減税などで「大企業の余剰資金を技術力の高い新興企業に振り向け、研究開発を活性化する狙いは分かる」と評価した。
ただ、読売が「問題」としたのはその制度設計である。企業向け投資減税は既にあるが、「日本企業の研究開発投資の伸びは鈍い。M&A減税でどれだけ投資が増えるか、未知数だ」と同紙。対象とするM&Aの範囲が広過ぎれば、単なるバラマキに終わる恐れがあり、経済活性化に資する投資に絞らなければならない、というわけである。
◆一層の増税説く日経
日経も同様に、日本企業が豊富な現預金を前向きな投資に充て、生産性向上や成長力強化につなげることは日本経済の重要課題であり、「それを税制面で支援することも理解できる」とし、老後に備えた若年層の資産づくりを支援するための投資を促す政策も重要だとした。また、与党税調が「経済のデジタル化など環境変化に対応した税制のビジョンを示そうとする意欲は歓迎したい」との評価は、いかにも経済紙らしい。
そんな日経が「心配なこともある」としたのは、与党税調の検討課題に減税メニューばかりが並んでいることである。「10月に消費税率を上げた後の景気に配慮するのはわかるが、財政健全化の視点を忘れてもらっては困る」というわけで、中長期的にはさらなる消費税増税を含む財政健全化の道筋を描く議論は避けて通れないとしたが、安倍政権でも2度の消費税増税で低成長を余儀なくされそうな状況の中、果たして同紙が説く成長との両立が可能なのか、この点は疑問が残った。
(床井明男)