米政権の入植容認は「和平への障害にならぬ」と主張するイスラエル紙
◆遠のく「二国家共存」
トランプ米政権は、イスラエルの占領地、ヨルダン川西岸への入植は「国際法に違反しない」との見方を明らかにした。従来の米政府の立場を転換させるものだ。パレスチナ自治政府は強く反発、米国内外からも強い非難の声が上がり、日本政府、欧州連合(EU)も直ちに「入植は国際法違反」との立場を明確にした。
一方で、イスラエル政府は歓迎を表明、保守系イスラエル紙は「和平への障害とはならない」と支持を明確にしたものの、イスラエル、パレスチナによる「二国家共存」をベースとする和平の実現が遠のいたのは間違いない。
英紙ガーディアンは「それでも違法」と題した社説を掲げ、発表を強く非難した。
「米政府は、全力でイスラエルの右派政権を支持し、パレスチナを罰し、二国家解決を葬ろうとしている」と主張、パレスチナ和平に逆行するものとの見方を明確にした。
その上で、「これもまた、ルールに基づく国際秩序を破壊しようとする米政権の試み」と指摘するとともに、「入植はやはり違法、トランプ政権の判断で国際法が変わることはない」と、占領地への入植の違法性を強調した。
◆パレスチナにも責任
一方、フリージャーナリスト、ウリ・ユヌス氏はカタールに本社を置く衛星テレビ局アルジャジーラのサイトに掲載した論説記事で、「米国の今回の政策転換も、イスラエル・パレスチナの対立への米国の対応の急激なシフトを示している」と、トランプ政権がパレスチナ和平への取り組みで従来の米政権から転換したとの見方を明らかにした。
トランプ大統領はすでに、東西エルサレムをイスラエルの首都として承認、大使館をエルサレムに移転させた。さらに占領地ゴラン高原のイスラエルの主権を認めるなど、イスラエル寄りの政策を次々と打ち出してきた。いずれも、イスラエル政府が望むことだが、従来の米政府が実行してこなかったことだ。
ユヌス氏は、「パレスチナにとって打撃」とした上で、西岸に建設された大規模な入植地の「併合への道を開く」もの指摘、そうなれば「二国家共存はもはや実現不可能になり、独立した、連続性のあるパレスチナ国家の可能性はほぼ消える」と訴えた。
ところが、ユヌス氏は、これまでにイスラエルとの合意に失敗してきたパレスチナ指導部側にも責任はあると指摘する。
パレスチナ解放機構(PLO)のアラファト議長(2004年に死去)は、「ユダヤ人の国としてのイスラエル建国の背景にあり、イスラエルの政策決定を動かしているシオニズム(ユダヤ人のパレスチナ帰還運動)を理解しないという『戦略的な大失敗』を犯した」と、パレスチナ指導部の対応のまずさが。現在の苦境を招いたと厳しい見方を示した。
◆「現実を追認」と強弁
これに対しエルサレム・ポストは、「入植が和平への障害になっているというのは幻想」との見方を示した。
イスラエルが1967年に占領して以降、西岸の入植地に住むユダヤ人は40万人に膨れ上がっている。ポスト紙は「長年のイスラエル・パレスチナ紛争など中東での現実が無視されてきた。米政権の判断は、この現実を追認するものであり、和平への障害にはならない」と入植が進んだ現状を受け入れるべきだとの見方を強調した。
これまで交渉で、イスラエルとパレスチナの間で、「領土交換」をめぐり交渉が行われてきたこと、すでに出来上がっている入植地の大部分は大規模入植地であり、「将来の合意でイスラエルが領有する」ことになるなどがその理由だ。
ポストは「米国の決定はパレスチナ指導部にとってモーニングコールだ。紛争を本当に解決したければ、現実を認識し始めなければならない」と訴えるが、力で勝るイスラエルの身勝手の感は否めない。
(本田隆文)