「孔子学院」米で広がる警戒感

特報’18

中国政府の政治拠点化危惧
閉鎖する大学相次ぐ

 米南部テキサス州のテキサスA&M大学は5日、中国政府系の教育機関「孔子学院」の閉鎖を発表した。中国政府の介入による学問の自由の抑圧やスパイ活動を懸念する同州選出の下院議員からの勧告を受けて決定した。米国では大学内で影響を強めようとする中国に対する警戒感から、孔子学院の閉鎖を求める動きが広がりつつある。
(ワシントン・山崎洋介)

監視強化訴える議員も

 孔子学院は、中国語教育や文化紹介の機関として全米100カ所以上の大学内に開設されている。しかし、中国共産党から提供される資金や教員、教材によって運営されている上に、教育内容は中国共産党の監督機関「漢弁(ハンバン)」から認可を得ている。このため、天安門事件など中国共産党にとって敏感な話題は取り上げず、台湾やチベット問題については共産党の主張を正当化する内容となっていることなどが問題視されている。

孔子像

米国の大学キャンパス内の孔子像(ジョージ・メイソン大学で)

 また、米連邦捜査局(FBI)のレイ長官は2月、米上院情報特別委員会の公聴会で、孔子学院について「米国の開かれた研究・開発環境を悪用している」と警戒感を表明。米国内でスパイ活動に関わっているなどとして、幾つかの孔子学院について捜査していることを明らかにしている。

 地元紙ダラス・モーニング・ニュースによると、今回テキサスA&M大学に対して孔子学院への懸念を伝えたのは、マイケル・マコール氏(共和)とヘンリー・クエラー氏(民主)の両下院議員。両氏は先月、同大など州内の4校に宛てた書簡で、孔子学院が米国の大学内で「中国の政治的な主張を広め、学問上の議論を抑圧し、重要な研究成果を盗んでいる」と主張。その上で孔子学院との契約を打ち切ることを「強く勧める」と訴えた。

 これを受け、テキサスA&M大学のジョン・シャープ学長は、孔子学院の閉鎖を決めた。シャープ氏は声明で、「両氏の判断や愛国心に疑問の余地はなく、しかも両氏はわれわれの知らない機密情報にも通じている」と、その理由について述べた。

ジョン・シャープ氏

孔子学院の閉鎖を決めたテキサスA&M大学のジョン・シャープ学長

 昨年、孔子学院の実態について報告書を発表した保守系団体の全米識者協会は、この決定について、「シャープ氏が学問の自由や学生と職員の安全のために重大な決断をしたことに感謝する」と歓迎する声明を発表した。同協会は報告書の中で、すべての大学に孔子学院との関係を絶つように呼び掛けていた。

 孔子学院など中国政府系の学術機関に対する警戒心は議員の間に広がりつつある。2月には、ウエスト・フロリダ大学が、同州選出のマルコ・ルビオ上院議員からの勧告を受け、5月までに孔子学院を閉鎖することを決定した。

 1月には、テキサス大学オースティン校が、中国共産党中央統一戦線工作部とつながりのある中米交流財団(CUSEF)からの資金提供を受け入れないことを決めた。ワシントン・ポスト紙によると、この決定に先立ち、テッド・クルーズ上院議員は同大に「CUSEFから資金を受け取れば、中国が学内でプロパカンダを広めることを許し、大学の信用も損なうことになる」と指摘し、資金提供を拒否するよう求めていた。

 このほか、米国ではこれまでにシカゴ大学とペンシルベニア州立大学が孔子学院を閉鎖している。

 ルビオ氏ら3人の議員は先月、孔子学院などへの監視を強化することを目的とした「外国影響力透明化法案」を提出。法案では、孔子学院などを外国機関として登録することや大学が外国の機関などから5万㌦以上の寄付を受けた場合に開示することを義務付けている。