揺らぐ米露「核の均衡」 トランプ氏増強示唆の背景


 トランプ次期米大統領が先月、ツイッターで「米国は核能力を大幅に強化・拡大しなければならない」と主張し、世界を驚かせた。トランプ発言の背後にあるのは、ロシアが新戦略兵器削減条約(新START)の発効後も核戦力の増強を進め、米露間の「核の均衡」が崩れ始めている現実だ。米国の核抑止力の信頼性は、日本の安全保障に直結する問題であるだけに、トランプ氏が「核拡大」にどう取り組むのか、注視していく必要がある。(ワシントン・早川俊行)

新START 露の核弾頭は増加

 2011年に発効した新STARTにより、米露は18年2月までに戦略核弾頭の配備数を1550発以下にすることになっている。条約発効時、ロシアの配備数は上限を下回る1537発だった。ところが、米国務省の発表によると、昨年9月の時点でロシアは1796発と、259発増やしているのだ。

 この間、米国は433発も削減。条約発効時は米国がロシアを263発上回っていたが、今はロシアが429発も多くなっている。

 新STARTの期限まで1年余りあるが、元米国防総省の核専門家、マーク・シュナイダー氏は、米メディアに「ロシアが新STARTを順守する可能性は極めて低い」と断言。さらに「ロシアは30年までに戦略核弾頭配備数を3000発に増やす可能性が高い」との見方を示している。

 ロシアは核弾頭を運搬する大陸間弾道ミサイル(ICBM)や潜水艦、爆撃機などの近代化にも力を入れており、米メディアによると、20年までに核戦力の7割が新型のシステムに入れ替わる見通しだという。

 これに対し、核戦力の老朽化が深刻だ。ICBMの「ミニットマン3」は40年以上、B52戦略爆撃機は半世紀以上も運用。オバマ政権が共和党の強い要求を受け、ようやく近代化に着手したが、新型の爆撃機や戦略原潜、巡航ミサイル、ICBMが配備されるのは、2020年代中盤か後半以降だ。

 核戦力を増強しているのはロシアだけではない。中国も近代化に力を入れ、北朝鮮も核開発に邁進(まいしん)している。米国の核の優位が揺らぐなら、日本が依存する「核の傘」の信頼性も揺らぐ。

 元米国防総省高官のフランクリン・ミラー、キース・ペイン両氏は、ウォール・ストリート・ジャーナル紙への寄稿で、核戦力の老朽化は意志の欠如と誤解され、攻撃を招く恐れがあるとして、近代化は「ロシアや中国、北朝鮮の冒険主義を防ぐために極めて重要」と主張。「不安定化する核の均衡」への対処が、トランプ次期政権の最重要課題の一つだと論じた。

 米保守系シンクタンク、ヘリテージ財団のマイケラ・ドッジ上級政策アナリストは、ロシアの戦略核弾頭配備数が400発以上も多い現状を「反転させなければならない」とし、トランプ次期政権にオバマ政権の一方的な核軍縮からの脱却を求めている。