カリフォルニア州で「男女共用学校トイレ法」に反発拡大
父兄ら撤廃求め住民運動展開
米カリフォルニア州で8月、公立学校に通う性同一性障害の生徒が実際の性別とは異なるトイレを利用できるようにする、通称「男女共用学校トイレ法」(以下、トイレ法)が成立した。これにより、男子生徒でも本人が女だと認識していれば、女子生徒のトイレや更衣室、シャワーを使うことができる。これに対し、保守派や子供を公立学校に通わせる父兄らは「狂気の沙汰だ」と猛反発しており、住民投票を通じて同法を撤廃しようと署名活動を展開している。
(ワシントン・早川俊行)
侵害されるプライバシー 性転換者の権利を優先
トイレ法は、州議会の上下両院で多数を占める民主党の主導で可決され、同党のジェリー・ブラウン知事が署名して成立した。このような法律は全米で初めて。来年1月から施行され、幼稚園から高校まで州内の全公立学校が対象となる。トイレや更衣室といった学校施設だけでなく、男女別のスポーツ活動でも、本人が認識する性別に応じて選択できるようになる。
トイレ法の推進派は、性同一性障害の生徒に対する偏見や差別をなくすのに役立つと主張。「レズビアンの権利のための全国センター」法務部長で、女から男への性転換者であるシャノン・ミンター氏は「この法律は性転換した若者が公立学校で真に歓迎される大きな一歩だ」と強調している。
これに対し、反対派は生徒のプライバシーが脅かされることに懸念を募らせている。法律には細かい規定がないため、性同一性障害であるかどうかは生徒の判断次第。従って、本人の気分でいつでも性別を変えることができ、今日は男、明日は女、あるいは家庭では男、学校では女、ということも可能だ。法律を悪用して、女子トイレや更衣室を覗こうとする男子生徒が表れることは十分予想される。
野党共和党のティム・ドンリー州下院議員は、米メディアへの寄稿で「全ての生徒が享受するプライバシーの権利は、いやらしい目つきで見られる権利に取って代わられる」と批判。ドンリー氏によると、子供を公立学校に通わせるのをやめさせ、ホームスクールや私立学校に切り替える家庭が続出しているという。同氏の2人の息子も「公立学校に戻ることはない」と断言した。
保守派コラムニストのレベッカ・ヘーゲリン氏は、「左翼にとって、性転換した子供たちの“平等”は、他の子供たちのプライバシーよりも大事なのだ」と指摘。「トイレや更衣室に異性が入ってくるのを嫌がる子供たちは、罰を受け、有害な性転換者恐怖症と特定される」と述べ、正常な感覚を持つ生徒は今後、「問題児」とみなされることになると警告した。
このほか、学校内での性暴力を助長したり、学業に支障が出る可能性など、さまざまな悪影響が指摘されている。また、スポーツ活動では、体格や体力で勝る男子生徒が女子チームに加われば、公平性が損なわれるほか、サッカーなど選手間の接触のある競技では女子生徒の安全が脅かされることになる。
法案提出者のトム・アミアノ州下院議員は、保護者や生徒の間で懸念があることを認めながらも、「不快感は偏見の言い訳にはならない」と、性転換者の権利が優先されるべきとの考えを示している。
反対派はトイレ法の撤廃を目指し、住民投票を求める署名活動を展開している。8日までに50万5000人分の署名を提出すれば、来年11月に同法の是非を問う住民投票の実施が確定し、来年1月からの施行は先送りされる。さらに、住民投票で反対派が勝利すれば、トイレ法を撤廃に追い込むことができる。
署名活動の先頭に立つ市民団体「全ての生徒のためのプライバシー」によると、父兄や教会などから続々と支援が寄せられ、撤廃運動は勢いづいているという。
同団体が行った世論調査によると、トイレ法に賛成する人は35%にとどまり、反対は過半数の51%に達した。同団体では、トイレ法の弊害を説明していけば、反対する人はさらに増えると見ており、「住民投票に持ち込めば、我々が大差で勝利するだろう」と自信を深めている。
撤廃運動を支援する動きは州内にとどまらず、全米に広がっている。一州でも前例ができると、他州に拡散する可能性が高いからだ。
実際、同様の法律制定を目指している州もある。民間団体「結婚のための全米組織」のブライアン・ブラウン会長は、全米の支持者に送った電子メールで「この法律がカリフォルニア州で認められれば、あっという間にあなたの州にもやって来るだろう」と、危機感を持って支援を呼び掛けている。
マサチューセッツ州など法律は成立していないものの、トイレ法と同様の政策を既に実施している州もある。コロラド州では今年6月、州の人権委員会が本来は男だが、女として生きている6歳の生徒に女子トイレの使用を認める裁定を下した。