オバマ大統領、テロ対策サミットで非軍事的対応強調

「イスラム国」対策 ワシントンでサミット

 今月17日から19日までワシントンで、60カ国以上の代表が集まって暴力的過激主義対策(CVE)サミット(テロ対策サミット)が開催された。非軍事的対策強化に向け国際連携強化を確認して閉幕したが、有効性を疑問視する声もいまだに根強い。(ワシントン・久保田秀明)

地上軍投入遅延の懸念も

批判受ける「テロと宗教分離論」

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19日、ワシントンで開かれた暴力的過激主義対策サミットの閣僚級会合で演説するオバマ米大統領(EPA=時事)

 テロ対策サミットには、国連、欧州連合(EU)、アラブ連盟などの国際機関や60カ国以上の代表が参加した。米国からは、オバマ大統領や閣僚、45の地域社会代表、警察などが参加した。日本からはいわゆる「イスラム国」の日本人人質殺害に前線で対処した中山泰秀外務副大臣が出席した。

 サミットは19日に、最近のテロ事件非難、過激主義情報共有、地域社会と警察の連携強化、過激派に対抗するソーシャルメディアの戦略的活用などの内容を盛り込んだ共同声明を採択して、閉幕した。今年9月に国連通常総会に合わせてサミットを開催して、成果を確認するとともに、テロ対策に向けた国際協力を強化していく予定だ。

 今回のテロ対策サミットでは、若者の過激化を助長する社会的、経済的環境に焦点が当てられ、雇用環境、教育環境の改善など非軍事的対策が強調された。オバマ大統領は18日の演説で、「暴力的な過激主義対策は軍事面だけの問題ではない」とし、貧困対策、若者への教育・雇用機会提供などの必要性を訴えた。

 サミットの共同声明はまた、「暴力的過激主義やテロといった用語をいかなる宗教、国籍、文明、民族との関連付けるべきではない」とし、過激主義やテロと宗教を明確に区別することを強調している。オバマ大統領は18日の演説で、「いかなる宗教もテロに責任はない」と明言し、19日演説でも、「西洋社会がイスラム社会と戦争をしているという考えは醜い嘘(うそ)である」と述べた。

 これはシカゴの貧困地域で社会活動をしてきた経験をもつオバマ氏が、米国内外のイスラム社会で雇用や教育の機会を作ることが若者の過激化を防止するという信念を表明したものである。オバマ政権になってから、米政府内ではテロとか過激主義という言葉をイスラム教とくっつけて使用しないという方針が実施されてきた。

 非軍事的、経済・社会的対策の強調、テロとイスラム教をことさら分離する考え方は、早くも共和党などから批判を引き起こしている。共和党議員やテロ専門家は、テロとイスラム教を分離することで、過激派組織「イスラム国」やアルカイダなどの過激思想がイスラム教に根ざしている本質がぼけてしまうという懸念を表明している。

 たしかに貧困や教育機会の喪失などは若者の過激化のきっかけを作る要因の一つだが、若者が過激化する過程でイスラム教の過激な解釈をもとに暴力を正当化していることも事実だ。若者の過激化プロセスでイスラム教の存在を無視することはできない。

 共和党のジョン・マケイン上院軍事委員長は2月19日、ツイッターで、オバマ大統領の発言を批判し、「イスラム過激派が西洋社会との戦いをしていないという考えは、醜い嘘だ」と皮肉った。オバマ政権下で昨年まで国防情報局長官を務めたマイケル・フリン氏も最近の議会証言で、「存在を認めていない敵を打倒することはできない」と、“イスラム”過激派の存在を認めないオバマ大統領の姿勢を批判している。

 社会、経済環境を改善することは、10年、20年という長期的な過激派対策に必要であることは間違いない。ただ、現に勢力の拡張を続けているイスラム国への対策としては即効性をもたないがゆえに有効性に欠ける。短期的には軍事的手段に依存せざるを得ない。

 オバマ大統領は会議での演説で、イスラム国掃討戦は「揺らいではならない」と述べ、シリア、イラクでのイスラム国への空爆を継続する決意を表明した。これまで米国主導の有志連合により2000回以上の空爆が実施され、イスラム国のイラクでの進撃を鈍らせていることは事実だが、イスラム国の勢力拡張を抑制するところまではいっていない。

 中東、北アフリカで10以上の過激組織が新たにイスラム国に忠誠を誓い、外国人戦闘員の数も2万人を超え増え続けている。米軍の司令官や軍事専門家の間では、イスラム国の壊滅には米地上軍の投入は避けられないとの見方が強まっている。オバマ大統領は現在決断を迫られているが、サミットを契機にした非軍事的対策強調がその決断を先延ばしにする口実に使われるのではないかという懸念も出てきている。