米国の対中牽制姿勢を反映、中国が初参加のリムパック2014

 ハワイ沖で22カ国が参加して行われている環太平洋合同演習(リムパック)が終盤に入っている。今回は初めて中国が参加し、演習への国際的関心も高い。(久保田秀明)

実力誇示、不要な衝突回避

日韓豪印と重層的連携

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陸上自衛隊は7月1日(現地時間6月30日)、米海兵隊と合同で離島奪還を想定した訓練を行った(陸自提供)。

 リムパックは、2年に1度行われてきた米海軍主催の世界最大規模の多国間海上軍事演習である。1971年に、米、カナダ、オーストラリア、ニュージーランドの海軍合同訓練として開始され、日本の海上自衛隊も1980年以降参加してきた。今年は6月26日から8月1日まで、22カ国から約2万5000人、55隻の艦船、200機以上の航空機が参加して実施されているが、幾つか今回初めてという試みがある。中国が初めて参加しているし、日本からは陸上自衛隊が初参加中だ。

 リムパックの開幕記者会見では、中国の参加に質問が集中し、会見を仕切ったハリー・ハリス米海軍太平洋艦隊司令官が「演習は中国と米国だけのものではない」と不快感を表明する一幕もあった。中国はミサイル駆逐艦「海口」、護衛艦「岳陽」、総合補給艦「千島湖」、病院船「和平方舟」という艦艇4隻を参加させている。

 日本の陸上自衛隊の参加は、2018年度に予定される日本版海兵隊「水陸機動団」の創設を意識したものだ。日中は東シナ海にある尖閣諸島の領有権をめぐって対立を深めているが、日本の水陸両用能力の拡充は主に中国の脅威を念頭に置いたものだと見ていい。さらに今回のリムパックでは、安倍政権の集団的自衛権に関する考え方の転換を反映するかのように、日本の自衛官が演習の人道支援・災害救助訓練で初めて多国籍部隊の司令官を務めた。

 ところが中国は、病院船を派遣していたにもかかわらず、日本指揮の人道支援・災害救助訓練には参加させず、尖閣諸島をめぐる日中対立が軍事交流・協力の場であるはずのリムパックにも影を落とした。

 リムパックの司令官であるフロイド米海軍中将は、この訓練を最も国際協調が見込める分野としていたが、期待外れに終わった形だ。中国海軍は4月に米国など各国の海軍が参加して実施された山東省青島沖での国際観艦式でも、日本の海上自衛隊を招かなかった。

 米国がリムパックに中国を参加させた意図をめぐっては、さまざまな憶測がある。米国が中国との間で進めている交流プログラムは90を下らない。リムパック期間中の7月9日、10日には北京で米中戦略・経済対話が開催された。リムパックへの中国参加もその一つで、2012年9月にパネッタ米国防長官(当時)が中国をリムパックに初招待し、昨年の米中首脳会談で参加が正式決定した。米国のオバマ政権は中国に対しては、軍事面で関与と警戒の二重路線を敷いているようで、リムパックは関与路線の一環である。

 ただ、リムパックへの中国参加は、米国の観点からすれば主として誤解による不必要な軍事衝突を回避するための関与だ。米国といえども現時点で中国と同盟国並みの本格的軍事協力が可能などとは考えていない。むしろ演習で、米軍の実力を見せつけることにより、中国が軽挙妄動しないよう牽制(けんせい)することの方に狙いがあるといえよう。

 オバマ政権は同時に、中国の海軍力増強を脅威として警戒し、日本にもTPY-2レーダー、グローバルホークなど最新鋭装備を展開し、西太平洋、東アジアにおける前方配備を強化している。米国防総省が進めているエア・シー・バトル(ASB)構想は、中国の接近阻止領域拒否(A2AD)戦略に対抗することを意図しているとされる。4月にはBMD(弾道ミサイル防衛)対応型イージス艦を2隻、日本に追加配備する計画を公表した。中国や北朝鮮の潜在的脅威増大を意識した措置だ。

 6月には米軍が「パシフィック・パートナーシップ2014」を主催し、日本の海上自衛隊の輸送艦が米、オーストラリアの部隊を乗せて南シナ海を航海するなど、中国を牽制する演習を実施している。リムパック開始日の6月26日には、米海軍はフィリピン海軍と合同で1週間、南シナ海で協力海上即応訓練(CARAT)を行った。中国が2012年に事実上占拠したスカボロー礁(フィリピンの排他的経済水域内)に近い海域での実弾演習も含まれ、中国を牽制する演習だったことは明らか。

 リムパックでも米軍は日本の陸上自衛隊と、尖閣諸島の有事を想起させるような離島奪還訓練を実施した。また7月1日にはハワイで日米韓の初の幕僚長会議を開催するなど、米国は日本、韓国、オーストラリア、インドとも、2国、3国安保連携を重層的に行い、中国を取り巻くような安保態勢を拡充している。