世界で続発するイスラム・テロ、過激思想に染まる若者

 130人もの犠牲者を出したパリ同時テロから1カ月。この間米国では過激派組織「イスラム国(IS)」信奉者による銃乱射事件が、英国では傷害事件が発生した。それらと前後して、マリ、イエメン、チュニジア、エジプト、ナイジェリア、チャド、シリアなどで、ISを含むイスラム過激派による大小のテロが続発、テロを生み出す過激思想になぜ若者が集まるのかとの問いも大きくなってきた。(カイロ・鈴木眞吉)

欧州のIS参加者、1年間で倍増

信徒の教育に乗り出すアズハル

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11月25日、爆破から一夜明けたチュニジアの首都チュニスのテロ現場(AFP=時事)

 テロ犯の最大の共通点は、「イスラム過激思想に傾倒」していたことだ。貧困や差別は誘因の一部になり得ても、自爆や殺害を行わせる決定的動機は、人生を捧げても悔いのない高い意義や価値、報奨等を得られる確信を持たせる聖戦思想にあるとみられる。

 アジアプレスネットワークが8日に報じた「ISを称える宗教歌」では、「我らは聖戦士。戦場での死こそ我らの夢。目を覚ませ!ムスリムの兄弟。信仰と勇気を持ち、失った教義を履行せよ。我らが今日に至り守ってきたコーランと聖なる教え。御主の道のため戦わん。偉大なアッラーの命令、聖人の指令のもと、武器をとり、抵抗するのだ」と歌われている。IS指導部は戦闘員に死を超える価値観を提示、確信させ行動させている。

 米紙ウォール・ストリート・ジャーナルが8日、米安全保障情報企業からとして、欧州からのIS参加者は過去1年間で倍増し、ロシア・中央アジアからは3倍に増えたと報じた。さらに「ホームグロウン(国産)テロリスト」が現実化し、思想は国境を超えることから、検問強化も役に立たない始末だ。

 その思想に傾斜したISや国際テロ組織アルカイダ、ムスリム同胞団を含むイスラム主義者の目標は、7~13世紀にかけてのカリフが支配し、イスラム法(シャリア)が施行された世界だ。そういう国家・世界を創建するための武力の行使は許されるとの聖戦思想を構築したのは、現代ではムスリム同胞団の理論家サイエド・クトゥブ。彼の後継者でパレスチナ人、アブドラ・アッザームは、ウサマ・ビンラディンの師で、イスラム過激派組織は全て同胞団を母体として現れてきた。

 テロを引き起こす最大の誘因が、イスラム過激思想にあるなら、問われるのは、イスラム教スンニ派の最高権威機関アズハルだろう。

 アズハルは昨年暮れまで、「テロリストらはイスラム教徒でない」と断言、トカゲの尻尾切りに徹し、故タンタウィ・アズハル前総長は、本紙のインタビューに、「政府が取り締まることだ」として、責任を回避していた。

 しかし、2013年エジプト大統領に就任したシシ氏は昨年10月、アズハルに、イスラム教義から暴力表現を除去する「イスラム教内宗教改革の断行」を要請、アズハルは態度を一変して、信徒、殊に若者への教育に乗り出した。

 アズハルは、過激な説教師をモスクから追放、過激な書籍を図書館から除去するなど改革を推進。さらに、世界各地での過激派の動向をチェックする「アズハル監視団」を設置、今年12月には、ISに傾倒する若者に関する調査結果を公表した。男性は、異教徒への聖戦やISの建国思想に引かれ、人生の目標を見いだす傾向があると分析。女性は「ヒーローのような男性」に憧れ、結婚願望を持ち、共鳴を深めていく傾向があるとした。

 世界各地でイスラム教徒に対する嫌がらせが拡大している。嫌がらせをする側は、どう考えても「テロリストはコーランを強く信じるイスラム教徒だ」と感じるのに、「イスラム教とテロは関係ない。イスラムは平和の宗教だ」などと、能天気で無責任な態度に終始しているイスラム教徒にイライラを募らせているのだ。

 コーランの厳密適用で知られるイスラム教ワッハーブ派で建国されたサウジアラビアは15日、エジプトやトルコ、ナイジェリア、マレーシアなどが参加する、対テロ「イスラム軍事連合」の結成を発表した。イスラム国家が自分たちの責任を認識し行動を開始することは大いに評価されるものの、イスラム教そのものの体質改善こそ、一層、求められている。

 キリスト教界では過去、聖書に科学の光があてられ、聖書批評学や様式史研究で、聖書の抜本的解明がなされたように、イスラム教の聖典コーランやハディース対する科学的解明が不可欠とみられる。イスラム教内宗教改革が待たれるゆえんだ。