自信深めるエジプト、テロ・経済などで重要会議成功

 エジプトは昨年12月から今年3月下旬にかけ、3大重要会議を成功させ、自国とアラブ世界の立て直しへの自信を深めている。イスラム過激思想の根絶を図るイスラム教スンニ派総本山、アズハルの国際会議、テロリストを生み出さないため、社会・経済の立て直しに取り組むエジプト経済開発会議、テロリストの殲滅(せんめつ)を具体化する「アラブ合同軍」の創設で合意したアラブ首脳会議などを成功させた。今後の中東安定化への3本柱になりそうだ。(カイロ・鈴木眞吉、写真も)

アラブ合同軍4万人規模で

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エジプト経済開発会議の会場に展示された新首都の予想模型=3月15日、エジプト・シャルムエルシェイクの国際会議場にて

 シシ・エジプト大統領は昨年10月、同国の宗教財産相との会談の場で、「イスラム教の教義が暴力(テロ)を生みだしている」と断言、イスラム過激派によるテロは、イスラム教義が原因との勇気ある発言を行った。オバマ米大統領はじめ世界の主要政治家がイスラム票を失うことを恐れてか、一様に「イスラム教と過激主義は関係ない」「攻撃を実行したテロリストは狂人で、イスラム教徒ではない」と声をそろえてイスラム擁護に徹してきた姿勢と比較、米紙ワシントン・タイムズは「9・11以降、これほどまでにはっきりと発言した指導者は世界中にいない」と絶賛した。

 同大統領の意を受けて昨年12月初旬に首都カイロで開催されたのがアズハル国際会議。テロや蛮行を重ねるイスラム過激派に対し、「彼らはイスラム教徒ではない」と、トカゲの尻尾切りに徹し、イスラム教とコーラン、イスラム指導者の責任が問われることから逃げ続けてきたアズハル指導部は、国内外700人余りの宗教指導者を招集した。グランド・イマムのタイエブ師は、「誤解して過激派に合流する若者に責任を持たねばならない。ジハード(聖戦)の意味について誤解している」と明言、アズハルは過去の教育の不十分さを認め、イスラム教徒教育に全責任を持つ姿勢を表明した。

 エジプト政府が次に企画した会議は、「エジプト経済開発会議」。テロリストを生み出すもう一つの側面とされる、貧困などの社会・経済的土壌にメスを入れ、若者らの雇用拡大と経済発展を促すためだ。

 シシ大統領は、「エジプト人口は、中東全域の4分の1に達し、3分の2が40歳以下だ」と指摘、エジプトの安定と経済発展が中東全域の安定と発展に直結すると強調、同国への投資を呼び掛けた。女性、障害者への雇用も飛躍的に増大させたいと述べ、「私の夢の実現を許してほしい」と訴えた。

 開発の目玉は、スエズ運河の大改修や、新首都構想。現在の首都カイロの人口1800万人が2050年には4千万になると見越し、行政と経済の中心を移転して新首都とするもの。総工費は推定450億㌦(5兆4600億円)。

 シリアやイラク、リビア、イエメンなど、周辺国が、「イスラム国(IS)」を含むイスラム過激派勢力の台頭により内戦状態に陥る中、エジプト経済の発展が中東全域の安定につながると確信した世界各国は、目標とした投資総額の4倍にもあたる600億㌦(7兆3000億円)以上の拠出を表明した。

 テロリストを具体的に掃討するための方策は3月下旬、シャルムエルシェイクで開催されたアラブ連盟首脳会議で論議された。

 シシ大統領は、「テロリズムやファナティズムがアラブ世界に深刻な脅威を与えている」と指摘、解決策の一つとして、「アズハルによる、宗教(イスラム教)改革の必要性」を改めて強調、イスラム教義の中から暴力思想を一掃し、真実のイスラム教とアラブ民族の「良き遺産」を守る必要性を強調した。さらに、内戦状態に陥ったイエメンに見られるように外部(ここではイラン)からの介入を阻止するため、エジプトは危機即応部隊「アラブ合同軍」の創設を主導した。

 合同軍は最大4万人規模。検討・調査を経て4カ月以内に結論を出す。本拠地はカイロかリヤドの予定。

 注目すべき点は、アラブ首脳会議でも、イスラム教改革に言及する要人がいたことだ。クウェートのサバハ首長は「テロリズムに対する攻勢の努力は、治安レベルだけではなく、知的レベルでも行われるべきだ」と述べ、イスラム教義の見直しを示唆した。ハディ・イエメン大統領は、「過激派武装勢力はイエメンを古い時代に戻したいと思っている」と指摘、イスラム教義の時代錯誤的側面を批判した。