「イスラム国」英米人3人を殺害、イスラム指導者からも非難の声

 イラクとシリアにまたがる地域に「イスラム国(IS)」の樹立を宣言したイスラム教スンニ派過激派武装組織は13日、英国人の人道支援活動家へインズ氏を、米国人ジャーナリスト2人と同様斬首して殺害、3人目の犠牲者とした。イスラム教の負の側面を鮮明に表出させ、世界中にショックを与えたIS。その掃討には、オバマ米大統領ら世界の政治指導者の本気度が試されるとともに、イスラム過激派を産み落としたイスラム教本体、その聖典コーラン、イスラム指導者らの責任も問われる。
(カイロ・鈴木眞吉)

柔軟で幅広い信仰姿勢が必要

800 ISは、斬首や公開処刑、強制改宗、女性差別などの前近代的価値観に基づく行動を臆さず実行する残虐性と豊富な武力、財力から、母体の「アルカイダ」を凌(しの)ぐとみられている。当初、態度を曖昧にしていた、ISと同じ宗教・宗派であるイスラム教スンニ派指導者らも、英国国教会のウェルビー大主教が8月8日、ISを糾弾、キリスト教最大勢力カトリックの本山バチカンがISに対する態度表明を迫ったことから、エジプトのグランドムフティ、シャウキ・アラム師が慌てて同12日、イスラム教スンニ派最高権威アズハルの見解としてISを、「イスラム教に打撃を与えている」として批判した。

 サウジアラビアのグランドムフティ、シェイク・アブデルアジズ師も19日、「ISはイスラムにとっての第一の敵だ」と断言、アズハルのタイエブ総長は9月8日、ISは「名称は何であれ、テロ集団だ」「世界にイスラム教徒の誤ったイメージを広げようとしている」と指弾、強い懸念を表明した。

 ISに参じた欧米各国からの戦闘員は、もともとイスラム教徒か、改宗者で、イスラム教を学び、改宗する過程で、過激思想に染まっている。英国ではISの勧誘員が街でビラを撒(ま)き、「イスラムを学びませんか」と呼び掛け、フランスでは千人もの白人が改宗したという。

 自爆テロを行う青年らが叫ぶ「聖戦(ジハード)」とは、インターネットの無料百科事典「ウィキペディア」によると、本来は、心の中の堕落や怠惰、腐敗などの諸悪と戦う克己の精神を意味しているそうだが、実際には、「イスラム世界の拡大あるいは防衛のための戦い」を意味している。これは、「イスラムだけが正しい」とする独善的思考を前提に他宗教の排斥を正当化、イスラム世界拡大のため命を懸けて戦うことを奨励する。聖戦で死ぬことは名誉で、死後の世界が保証される。その結果、思想・信教・言論の自由を求める現代的価値観と全く正反対の前近代的価値観が刷り込まれる。

 イスラム指導者は、イスラム教への責任追及をかわすため、「アルカイダは米国が作った」(アズハルの宗教間対話責任者だった故アザブ師)などと反論、決して、イスラム思想が原因で暴力が行使されたことの責任を認めない。だから、イスラム指導者の中に誰一人、9・11事件やISの台頭を謝罪した人物はいない。「イスラム教徒が事件を起こし、多大な犠牲者を出した。イスラム教の指導者として申し訳ない」と公衆の面前で謝罪した人物は皆無だ。聖職者らは、「彼らはイスラム教徒ではない」と、トカゲの尻尾切りに徹し、「コーラン」批判を招かないよう必死で防衛している。

 しかし、「アラブの春」が、イスラム過激派集団により、発生したすべての国で台無しにされたことや、ISの台頭を前に、もはや、責任逃れに徹することは許されないだろう。

 イスラム教徒を指導できるのはイスラム指導者以外にない。同じ聖典を信じる者からの説得以外、彼らの宗教思想を変えることは不可能だからだ。

 ケリー米国務長官がエジプトを訪問した13日、随行員が、「アズハルが金曜礼拝などを通じ、ISを批判することが重要」と苦言を呈した。

 コーランの中にある、女性蔑視、暴力思想など前近代的教えに対する近代的解釈が急務だろう。キリスト教会は中世まで、聖書の言葉一字一句を神からの啓示として頑(かたく)なに信じ、十字軍や魔女狩りを正当化したが、宗教改革や科学の勃興を通じ、聖書がズタズタになるほどの批判に晒(さら)される経過を経て、文字に固執しない、柔軟で幅広い信仰姿勢へと転換、他宗教・他宗派との協調姿勢へと変化してきた。

 イスラム指導者は、謙虚に正直にコーランに向き合い、科学の光の下で、コーラン研究の自由化を推し進めるべきだろう。コーランの文字を絶対視して固執する限り、過激思想は後を絶たないからだ。