韓国退役軍人が“決起”、文政権の従北政策を糾弾

現役将兵の“覚醒”を促す

 韓国の文在寅政権は「従北左派政権」であり、彼らは「共通の価値」を持っていた日本、米国との同盟関係を破壊し、「体制の違う」北朝鮮、中国との関係を強めている―。日本で聞こえる韓国政府への危惧である。

 昨年9月の南北軍事合意では事実上、軍事境界線での“武装解除”を行ってしまったが、「在郷軍人会」や「星友会」といった退役軍人の組織からはこれを批判する声は聞こえてこない。

 最近は、海上自衛隊哨戒機への「火器官制レーダー照射」問題で表面化したように、たとえ政治が対立しても揺るがなかった軍と軍との信頼関係にもほころびが出始めている。本来論理的、合理的に判断・行動するはずの軍までが左派政権の意向を汲(く)んで“友軍”との対立緊張を躊躇(ちゅうちょ)しないのだ。

 韓国で文政権の過度な北傾斜に危惧を抱く者はいないのだろうか、保守勢力はいったい何をしているのか、という疑問が湧く。しかし、現地メディアからも、日本メディアからも、保守勢力の動きはなかなか伝わってこない。

 そんな中、朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(2月号)が退役軍人の“決起”を伝えた。1月30日、約500人の退役軍人らが「大韓民国守護予備役将軍団」を創設し、出帆大会を行ったのである。軍人OBの中から文政権に批判の声が上がったのは初めてだ。

 メンバーは国防部長官、合同参謀議長、米韓連合軍合同司令部副司令官、海兵隊司令官など軍トップを歴任した人物らで、軍現役への訴えと、対国民声明を出した。その中で、将軍団は文政権の対北政策を「偽装平和と共産化の可能性の高い南北協力」だと断じ、南北軍事合意の破棄を決議。将兵に対しては、「韓半島全体を金日成主義国家へ推し進める大韓民国共産化を直ちに中断させよ」と訴えた。

 将軍団は、「われわれは大韓民国が急速に崩壊されるこの惨めな現実をこれ以上座視できない」という厳しい危機感を打ち出した。特に昨年9月の南北軍事合意は「わが軍の安保力量だけを一方的に無力化させた」もので、「反憲法的行為であり、利敵性の合意、国家自殺宣言」だと断じ、「愛する後輩」である現役将兵の“覚醒”を促した。

 その返す刀で自由韓国党など保守勢力にも批判を加えている。「祖国守護のために闘争しない政党は政党の資格がない」とし、「従北左派政権の終息を目標に大同団結し、共闘に加わるかどうか選択せよ」と迫った。「崩壊した」と言われる韓国保守派を叱咤(しった)し、奮起を促しているのだ。

 一方、米韓防衛費分担については、「韓米同盟は大韓民国の生存と繁栄を守る必須不可欠の要素であり安保防壁だ」とした上で、「文在寅政権が北朝鮮に与える金はあっても、在韓米軍支援に回す金はないというなら、われわれ国民は立ち上がって在韓米軍駐留費用の不足分を国民義援金で充当しよう」とまで提案した。

 この軍OBの声明は韓国の危機がそれだけ深いことを示しているが、この声が現役にどれだけ聞き入れられるかは不明だ。むしろ現実にはほとんど影響がないといってもいいかもしれない。現在の軍は、まともな幹部が人事され、司法界はじめ社会の各層への左派浸透が顕著なように、軍もその例外ではないからだ。

 よく「クーデターは起きるか」という問いに対して、「もはや軍にその力はない」と否定されることが多い。退役軍人たちが呼び掛けたところで、それに呼応する現役はいないということである。

 そう見てくると、将軍団の“檄(げき)”は老犬の遠吠(ぼ)えのようにも聞こえるが、最近の文大統領への支持率がじりじりと低下しているのを見れば、文政権への国民の不満が確実に拡大していることが分かり、軍に「本来の役割に戻れ」との訴えが意味を持つ可能性もなくはない。

 編集委員 岩崎 哲