文政権のキーパーソン
緊張緩和策進める文正仁教授
韓国で最も文在寅大統領に影響力のあるのは文正仁(ムンジョンイン)延世大名誉特任教授だ。肩書は「大統領外交安保特別補佐官」。しばしば大統領府の“本音”を漏らして物議を醸し、「個人の意見」だとして大統領府があたふたと収拾に駆け回る。文教授は金大中、盧武鉉、文在寅と3人の大統領に随行して平壌に行き、南北首脳会談に臨んだ経歴を持つ。外交安保そして南北政策の背後には文教授がいる。
平壌共同宣言で最も問題となったのは南北の軍事緊張緩和策だった。国際社会が北朝鮮に対して、「先に核・ミサイル放棄、後に制裁解除」を堅持して北朝鮮を追い詰めている中で、一人韓国は「先に信頼醸成、緊張緩和」を推進し、足並みを乱している。これも文教授の政策だ。
文政権のキーパーソン文正仁教授に月刊中央(10月号)が「北朝鮮非核化の未来」についてインタビューしている。
文教授の主張は簡単だ。「圧力と対話」路線ではなく、まず北朝鮮との「信頼醸成」を行い、その上で北に核・ミサイル開発を放棄させるというもので、この信頼醸成を行うためにも「制裁緩和」を行うべきだというものだ。
韓国保守層や日米と完全に違うのは、北朝鮮と信頼醸成できると見ている点である。既に北朝鮮は国際社会から信頼を失っている。合意や協定を結びながら、裏では核開発を続けてきた“前科”が明白だからだ。
そうした国際社会の懸念をよそに、平壌宣言では軍事分野合意による緊張緩和策を決めた。すなわち非武装地帯(DMZ)での鉄道連結、共同警備区域(JSA)での武装解除などで、これは国連軍司令部、つまり米軍司令官との調整が必要な事項である。
ポンペオ米国務長官はこの措置に激怒し、康京和外相にねじ込んだ。これに対して、文正仁教授は「国連軍司令部との協議はきちっと行っている。国連軍司令部が国務省とどのようなやりとりをしているか、していないかは、こちらの知ったことではない」と突っぱねている。国連軍司令官は米軍司令官である。
ことほどさような“文正仁節”がインタビューでは展開されている。文在寅政権の対北政策を知ろうとすれば、文正仁教授に注目しなければならない。
編集委員 岩崎 哲