横柄な北の李善権委員長 失礼な言葉遣いに韓国民反発
文政権の“従北”度が明白に
韓国ソウルに赴任した当時、この国は「東方礼儀の国」だといいながら、実際街で目にする韓国人は傍若無人で、そのどこに「礼儀」があるのかと不思議でならなかった。ようやく気付いたのは韓国で言う「礼儀」とは日本人が理解しているマナーやエチケットのことではなく、限られたグループ内での「上下関係」でどのような態度、作法、言葉遣いをすればいいのかということを指し、「他人」への「礼」はほとんど顧みられないということだ。
そのため初対面ではお互いに“素性”を探り合う。誕生日が1日でも違えば上下関係が生じる。これに一族で第何世代かや門閥、学閥、地域閥に加え職業、収入や暮らしぶりなどが加味されて、素性が分かってくると、そこで上下関係が確定する。
上下関係は絶対で、それを崩したり、乗り越えることはできない。なので、明確な尺度が見つからないとき、最初にマウントポジションを取った方が有利にことが運ぶ。そのため、ことさらブランドで身を固め、大型車に乗り、一等地の高級マンションに住み、相手を圧倒しようとする。韓国人が「外華内貧」と言われるのはこのためだ。
さて、南北が接触するとこのマウンティング争いが起きる。最近、北朝鮮の対南工作担当部署である祖国平和統一委員会の李善権委員長の態度が韓国メディアで叩かれていて興味深い。月刊朝鮮(11月号)が「李善権の傲慢(ごうまん)さ、大韓民国蔑視」と報じている。
韓国側のカウンターパート、つまり外交的には同格である趙明均(チョミョンギュン)統一部長官に対して、部下に指示するように「これまでの事業を点検せよ」とぞんざいな言葉遣いで“命じ”た。これに対して、あろうことか趙長官は「おっしゃる通り、相手の立場を考慮して解決していきます」と答えたというから、韓国メディアは李委員長はもとより、“情けない”応答をした趙長官へも批判を向けた。
韓国語は日本語よりも敬語が厳格で細かい。上下で人間関係を捉えているから当然と言えば当然だが、外交の場で、一国を代表している相手側に対してぞんざいな言葉を投げ掛けるのは相当に失礼なことだ。かつてジョージ・W・ブッシュ米大統領が金大中大統領を「この男」と言ったことで韓国メディアは「欠礼だ」と頭から湯気を立てて激高したことがあった。そうなると内容よりも言葉尻にしか目が行かなくなるが、言葉遣いはそれほど彼らにとっては重要なのだ。
話を戻す。また平壌での南北首脳会談に同行した韓国財閥の総帥たちにも李委員長は「冷麺が喉を通るのか」と皮肉を放ち、韓国の「対北経済協力が振るわないことに不満を表した」という。「経済力で47倍もの差がある大韓民国の代表と財閥総帥らに訓戒するような言動をはばからない」とは言語道断だと息巻くが、李委員長には馬耳東風だ。
さて、問題は李委員長よりも趙長官の方だ。なぜ趙明均統一部長官はへりくだった言動を取ったのかについて、同誌は分析している。
趙氏はかつて盧武鉉(ノムヒョン)大統領と金正日(キムジョンイル)総書記との単独会談(2007年)に同席して、会議録を整理した人物だ。ここでも金総書記は「委員長様」と呼ぶ盧大統領に対して、「いいだろう」とぞんざいに応じていたという。もっとも、公式記録ではこの部分は削除されているが。こうなると趙氏の中に「対北屈従」因子があるのではと疑いたくもなる。
同誌によれば、李委員長の対南非難程度は5月ごろから急に高まったという。4月の南北首脳会談以降のことだ。これは板門店と平壌で“意を含めた”文在寅(ムンジェイン)大統領に対し、板門店宣言、平壌共同宣言の履行を迫り、対北経済協力が進まないことへの苛立(いらだ)ちをぶつけたものと見るべきだろう。
しかし、そうした李善権委員長の横柄な態度は逆に韓国民の反発を呼んだ。これでは韓国政府が動ける余地を狭めてしまい、北朝鮮にとってマイナスだ。優位な地歩を確保しようとして裏目に出た格好である。
朝鮮半島との交渉ではしばしば「援助を受ける側の態度が大きい」ことがある。北に舐(な)められている文在寅政権の“従北”度が現れた事例で、保守系のみならず韓国メディアに批判がしばらく続きそうだ。
編集委員 岩崎 哲