韓国保守派の時局宣言、三つの危機訴え政権批判

 韓国は現在、三つの危機に直面しているという。国家アイデンティティーの危機、北核安保危機、複合経済危機だ。これらに対して「右派の市民社会連合体の『大韓民国守護非常国民会議』」が「時局宣言」を出し、それを「月刊朝鮮」(9月号)が伝えた。文在寅左派政権に対して保守派が抱く危機感がにじみ出ている。

 まずは建国論争だ。文在寅政権は最近になって韓国の建国を1948年ではなく、19年の「臨時革命政府」樹立にあると主張するようになった。神話でもない限り、近現代で国家の独立が一国家の承認もなしで認められるはずもなく、朝鮮半島で韓国が単独で独立宣言した48年を認めたくないということで、北朝鮮とズレてしまった建国の経緯を縫合しようとする思想的な主張である。

 第二の安保危機は、北朝鮮の非核化を待たずに「終戦宣言」を推し進めようとしていることだ。ベトナム戦争時の「パリ和平協定」の前轍(ぜんてつ)を踏むなと警告する。和平と言いながら、米軍撤退後の南ベトナムを侵略したのは北ベトナム正規軍だった。終戦宣言は在韓米軍駐留の名分を失わせ、安保環境を変化させる可能性がある。

 第三は「類例のない複合経済危機」だ。経済の失敗を「経済の現実を生半可な観念の枠組みに押し込めようとする」ことにあると糾弾している。「所得主導政策」などという学生運動上がりが占める大統領府スタッフによる理論の実験台にされてはたまらない、ということだ。

 そこで国民会議は、▼建国の歴史的事実を認め、国家体制転覆を謀る者を捜査せよ▼年内終戦宣言を諦め、対北政策は米国と緊密に協力せよ▼脱原発、大企業締め付けをやめ“第二の漢江の奇跡”を創出せよ▼対北支援事業を白紙撤回し、制裁を徹底化せよ―と要求している。

 9月半ばの第3回南北首脳会談を前にしたタイミングでの発表だが、対北融和政策に邁進(まいしん)する文政権が耳を貸す可能性は極めて薄い。ただ韓国民の間に一定程度、この危機感を共有する層は存在する。それが政府を倒すろうそくデモにまで発展させられないところに、現在の韓国保守派の限界が露呈している。

 編集委員 岩崎 哲