北朝鮮経済建設、支援に前のめりの文政権
ブレーキをかける韓国メディア
南北首脳会談、米朝首脳会談が行われても、北朝鮮の非核化はなかなか進まない。首脳会談ばかりが繰り返され、実質的進展が見られないのだ。非核化は進まないが、その一方でなぜか北朝鮮経済への期待感は膨らんでいる。まるで国連の制裁が解除され、開放に踏み切った北朝鮮に中国はじめ韓国の資本が一斉に堰(せき)を切ったようになだれ込むかのような錯覚と熱気が渦巻いているのだ。
それには金正恩労働党委員長が核・ミサイル開発と経済建設の「並進路線」から「経済」一本に舵(かじ)を切ったとの判断が下地にある。
その際、韓国は、北朝鮮の経済建設を支援すべきであるどころか、同族としてチャンスをより多く手にすべきだ、との考えを抱いている。同時に、中国やロシア、そして皮肉なことに将来的には日本や米国にその果実がさらわれてしまうのではないか、という警戒感と焦燥感もある。文在寅政権が、非核化が進まない中で南北連絡事務所の開所を急ぐのも、それが背景にあるからだ。
東亜日報の総合月刊誌「新東亜」(9月号)が「南北経済協力」特集を載せた。一言で言えば、文政権の前のめりの北支援の熱気に水を掛けようというものだ。「経済協力再開“1号事業”『羅津・ハサンプロジェクト』に事業性はない」と断じている。
この「羅津・ハサンプロジェクト」とは、北朝鮮の羅津からロシアのハサンを結ぶ鉄道を軸に経済協力を拡大していこうというものだ。これ自体はわずか54キロにすぎないが、シベリア鉄道と連結され、パリ、ロンドンとも結ばれるユーラシアのランドブリッジになるとの期待が寄せられている。文大統領が8月15日に発表した「東アジア鉄道共同体」構想はその一部を成す。
同誌によれば、韓国と北朝鮮、ロシアでコンソーシアムが組まれており、韓国側はいずれも“受益者”となるコレイル(鉄道建設)、ポスコ(鉄鉱石確保)、現代商船で、北朝鮮側は「土地とインフラを提供し、座っているだけで利益を得る」ことになる。
ロシアの目的は羅津港の利用にある。既にウラジオストクなど極東の港湾受容能力は限界に来ており、羅津港の利用で他の極東港湾受け入れ能力に余裕をつくるというところにある、という。
これに対して、韓国は会計法人に実態調査をさせた。その結果「商業性は落第点」という結果が出た。「物流では利益を確保できず、運営を通した利益金が費用と借入金利に耐えられず、事業初期はもちろん30年後になっても利益を出すことができない」との判定だ。このままでは「ロシアが先行投資分を回収するのを助けるだけとなる」と警告している。
にもかかわらず、「現在としては羅津・ハサンプロジェクトが北方経済協力の信号弾となる事業になる可能性が大きい」という。「中朝露国境は韓国経済の新しい成長拠点になり得る。鉄道のユーラシア連結は莫大な費用が掛かるが、統一への先行投資」と捉えているからだ。
同特集では経済建設への期待が高まっている中朝国境地帯のルポも載せられた。大きく変化している様子を伝えている。「市場経済の日常化」「スマートフォンの普及」「ドル、ユーロ、円、人民元の流通」「生活必需品の普及」が見て取れるという。
制裁をかいくぐった密輸も減っているという。密輸されていた生活用品などは、既に北朝鮮国内で生産され、場合によっては中国製品よりも質が良いため、密輸に頼る必要が低下しているというのだ。
「北朝鮮が全面的開放路線を取るだろうとの期待感」から、中朝国境の遼寧省丹東では不動産価格が暴騰している、という。また国境の川(鴨緑江、豆満江)をまたぐ各所の橋は片側2車線などに拡張され、通関手続きも簡略化されている。各地で建設工事が進められているというのだ。
非核化が曖昧なまま、経済建設に雪崩を打って行こうとしている文政権や経済界。その現状にブレーキをかけようとする韓国メディアだが、彼ら自身も北朝鮮経済特集を外せない雰囲気の中にいる。
編集委員 岩崎 哲