“左偏向”お笑いタレント
公営放送のMC起用に反発
朴槿恵大統領を引きずり降ろした韓国の「ろうそくデモ」。大統領選挙という民主的手続きを経たとはいえ、現職大統領を任期途中で辞任に追い込み、勢いを駆って野党側が政権を奪取したのだから、振り返ってみれば、路上から“クーデター”が繰り広げられたようなものである。
ソウルの中心・光化門広場では連日集会が開かれ、入れ代わり立ち代わり壇上に人が上がってアジ演説が行われた。韓国人は言葉の民族でもある。日本語の演説がもたついて聞こえるのに対して、韓国人のそれは実に能弁だ。言葉の強さ、表現の多用さで聴衆を扇動する力が言語自体にある。
政権を批判し、民衆をアジっていた中に一人のお笑いタレントがいた。金済東(キムジェドン)氏だ。風貌は日本のお笑いタレント爆笑問題の太田光氏に似ているが、法律を駆使して朴政権を批判する言葉は立て板に水。ぐいぐいと聴衆を引き付けた。“クーデター”の“立役者”と言っていい。朴政権の「芸能人ブラックリスト」にも名を連ねていた。
その金氏が公営放送であるKBSの深夜トークショーのMCに起用されるという話が出てきて、波紋を広げている。日本でもお笑いタレントやアイドルがニュース番組のキャスターを務めることが多くなっているが、金氏の場合、ニュアンスが異なる。「従北」「左派」という思想的立場がはっきりしており、それを隠さないのだ。
まずKBSの労組が反発した。金氏の「左偏向」を問題視したのだ。「公正性と客観性、均衡性の問題、また偏向の問題が憂慮される」と指摘。また労組の危惧を伝える形で、「月刊中央」のサイトでは、同じように金済東氏の「左偏向」を批判した。「月刊朝鮮」(8月号)もまた「公正性と客観性を害する」「従北性がある」と憂慮を示している。
金氏の起用はまだ正式決定ではないようだが、もしトークショーのMCに決まれば、わが国の「朝まで生テレビ」のような番組で、扇動性の強い金済東氏の保守政界批判と文在寅政権支持が展開されることになる。
朝鮮日報も中央日報も“保守系”メディアであるため、金氏の起用に反発するのは当然としても、KBSを含めメディアがこぞって危惧を示したことは珍しい。それだけ、金氏の影響力の強さが危険視されていると言えるが、左派政権下の公営放送がどう判断するか注目される。
編集委員 岩崎 哲