経済活動を活発化させる北 中国に設備投資呼び掛け
完成品の生産・輸出目指す
北朝鮮の非核化が進まず、国際社会による経済制裁が続いているにもかかわらず、北朝鮮の経済活動が活発化してきている。制裁解除を見越した中国の対朝投資の動きがあるのだ。さらに韓国までが制裁違反と知ってか知らずか「北朝鮮産石炭」を購入して問題化するなど、なりふり構わない北朝鮮との経済関係構築の動きが観測されている。
北朝鮮は4月の労働党第7次大会で「国家経済発展5カ年戦略」を承認した。これは核開発と経済発展を同時に進める「並進路線」を明確にしたもので、国家の力量を核・ミサイル1本だけに注入するのではなく、「経済強国」建設にも本格的に取り組もうという方針だ。
周辺国の反応はすぐに表れた。南北首脳会談、続くシンガポールでの米朝首脳会談を前後して、中朝国境地帯の中国側、また南北を分ける非武装地帯の南側では土地の値上がりが伝えられ、さらに「北朝鮮労働者が中国の工場に復帰している」と消息筋が伝える。また、原油や石油製品は、海上での「瀬取り」や普通トラックでの運搬によって、「制裁以前の供給水準をほとんど回復した」状態だという。北朝鮮が“対話”に出ただけで、このように周辺国の動きが速度を増しているのだ。
東亜日報社が出す総合月刊誌『新東亜』(8月号)は、「メード・イン・ノースコリア輸出拡大準備中」の記事を載せた。北朝鮮の経済担当幹部が中国の商業中心地である上海や浙江省を訪れ、しきりに北朝鮮への投資を持ち掛けているという情報を伝えている。
それによると、北朝鮮は中国の業者に対して「多様な分野の工場を建設してほしい」として、これまでの「賃加工」(外国企業から原材料とともに注文を受け、単純加工する)から抜け出して、直接完成品を生産して、「全世界に輸出しようという目標を持っている」のだという。
さらに経済建設の基盤となる社会間接資本施設の構築事業にも力を入れており、同誌によると、5月に北京に寄った北朝鮮労働党の使節団は「北京基礎施設投資有限公司」を訪れ、「中国横断鉄道等、インフラ再建協力を協議した」という。
中国横断鉄道とは遼寧省東端の丹東から北京に至る鉄道に、北朝鮮側の新義州―平壌をつなぎ、さらにソウルにまで延伸する路線のことだ。これでソウルから北京までがつながれることになる。「中国が推進する一帯一路構想」をベースにしたものだ。
北朝鮮の経済路線は結局、中国が最も恩恵を受ける、と同誌は分析する。にもかかわらず、中国は最近の南北接触を根拠に、「北朝鮮建設事業の主導権を韓国に奪われるのではと不安を感じている」とも伝える。両天秤(てんびん)にかけて競わせる北朝鮮の常套(じょうとう)手段に中国がまんまと乗せられた格好だ。
もっとも、こうした状況を伝える韓国誌自体も北朝鮮の策謀に嵌(は)められている可能性がある。文在寅政権の強い“片思い”にもかかわらず、南北の経済関係はほとんど進展していない。その現状からして、実際に韓国は中国の競争相手にはなり得ないのだ。
そう見てくると、中国の動きを指をくわえて見ているしかない韓国政府の無策ぶりへの批判が、この記事の下敷きになっていることが分かる。本来同族の北朝鮮に中国の手が伸びることへの焦りを反映したものだ。
編集委員 岩崎 哲