左派が牛耳る文在寅政権 歴史解釈の塗り替え図る
日本との条約、協定見直しも
韓国の文在寅(ムンジェイン)政権は学生運動出身者であふれている――。スキャンダルに見舞われた朴槿恵(パククネ)大統領を「ろうそくデモ」という場外乱闘で退陣に追い込み、その勢いをかって大統領の椅子を仕留めた文大統領は官邸スタッフと閣僚の多くを学生運動出身者で埋めた。
一連の政変は、後になってみれば、左派による「革命」といっても過言ではない。だから、新政権の構成が“革命の闘士”に比重が置かれるのも無理のない話なのだ。
東亜日報の総合月刊誌「新東亜」(12月号)は政府内の「運動圏インナーサークル」の記事を載せている。「運動圏」とは韓国の左派系学生運動の中心勢力を指す。
11月、野党議員が国会で、「大統領府は主体思想派と全大協が掌握している」と追及すると、その“頭目”とも目されている大統領秘書室長(日本の官房長官に相当)を務める任鍾晳(イムジョンソク)氏が、「それが質問か」と強く反論したという。
主体思想派とは「北朝鮮の金日成(キムイルソン)の主体思想を行動綱領として政治運動をした学生運動の一派だ。任室長は全国大学生代表者協議会(全大協)議長を歴任」している。全大協は学生を北朝鮮に不法に送り込んだりするなど、左派学生が主導した学生運動の連合体だ。任氏は国家保安法違反で逮捕され懲役5年の判決を受けた筋金入りの運動家である。
同誌がこの記事で挙げた文政権の学生運動出身者は約30人に及ぶ。その職責も大統領の秘書官、秘書、行政官、長官・次官、政府諮問会議の議長、道知事などに及ぶ。彼らは学生時代に運動を行っただけでなく、卒業後は公務員、検事、弁護士、大学教員など社会の各層に浸透して、この日のために力を蓄えていた者たちだ。ほとんどが全国・各地の総学生会の幹部出身である。
ただ、同誌は同じ「運動圏」といっても、大きく二つの系統に分かれると説明している。一つは「民族解放を優先的闘争課題とし、韓国社会の矛盾を反米自主で解決しようとする」民族解放(NL)派と、他方は「民衆民主主義を優先視し、韓国社会の矛盾を外部勢力によるというよりは階級問題として把握する」民衆民主(PD)派だ。
ただし、NL派もPD派も同じく「民族解放民衆民主主義革命(NLPDR)という団体から出ているという。ごく大ざっぱに言えば、日本でも左翼運動に「◯◯派」「△△派」とあったようなものだと理解すればいいだろうか。そして、彼らが政権の中枢に入り込んでいる、というのが現在の文在寅政権ということだ。わが国でも社会党政権、民主党政権があったが、これほど多くの運動家が要職に就いたことはなかった。
文政権がこだわる「積弊清算」は、学生時代に受けた「軍事政権からの弾圧」に対する報復という側面もあるにはあるが、本質的には歴史の解釈の塗り変えを行おうというものだ。思想、理念、立場が違えば同じ事象でも全く別の見方ができ、解釈ができる。「反社会的な破壊活動」が、「革命のための正当な武装闘争」になるといった具合だ。その意味で、朴政権から文政権への転換は「革命」だと言っていい。
現政権の「積弊清算」の対象とされているのは朴政権だけでなく、李明博(イミョンバク)政権にも及び、さらに、全斗煥(チョンドゥファン)、盧泰愚(ノテウ)、そして朴正煕(パクチョンヒ)時代にまでさかのぼっていく。
その遡及(そきゅう)は政権の再評価だけにとどまらない。政府が外国と結んだ条約、協定も見直しの対象となっていく。それが最近の例では2015年の慰安婦問題日韓合意への見直し論であり、1965年の日韓基本条約、さらには10年の日韓併合条約までをも見直そうという動きになっているのだ。
同誌が紹介した文政府への左派人士の浸透度合は、単に韓国内の左右・保革の対立という問題を引き起こすだけでなく、海を越えて日本にまで影響が及んでくる可能性が十分にあるということに留意しておくべきだ。
編集委員 岩崎 哲