強かな韓国の対中対米観 半島の戦略的価値を認識

米中間の「バランサー」を自負

 韓国は民主主義、資本主義経済という共通の価値観で米国、日本と同盟、協力関係を持つ国だが、しばしば、その対極にある一党独裁、共産主義の中国の引力圏に入って行こうとして、両陣営の間で“コウモリ”のような行動を取り、日米から不信の目を向けられることが多い。

 だが、韓国の文在寅(ムンジェイン)大統領の主張は違う。米中の間で「バランサー外交」を展開するというのだ。しかし、現実的に見て、世界のスーパーパワーである米国とそれに迫る中国との間でバランサーとして立ち回れる軍事・経済・外交的力量が韓国にあるかといえば、そうではない。日米側から見れば、単に日米韓の軍事同盟・協力体制に楔(くさび)を打ち込もうとする中国側の意図に踊らされているだけ、と映る。

 最近、その中国が韓国を手玉に取った事例があった。サード(高高度防衛ミサイル)問題で生じた韓中摩擦が電撃的に“解決された”のだが、その内容が中国側の言いなりだったケースだ。中国は「サードの追加配備、日米韓3カ国の軍事同盟化、米国のミサイル防衛(MD)システムへの参加」の3点を否定する「三不」を要求して、韓国はこれをのんだのである。

 本はと言えば、サードは北核・ミサイルへの対抗措置として導入するものだ。中国が強い影響力を行使して解決を主導していれば、なかったことである。だが、有効な手だてを打たずにいる間に、北朝鮮は「核保有国」を宣言し、サード導入が現実化した。

 元来、中国を狙ったミサイルではないにもかかわらず、中国は韓国に「制裁」を加えた。在中韓国企業への締め付け、韓流の禁止、韓国への旅行制限など「限韓令」を発して韓国を締め上げた。韓国はいわばトバッチリを受けたにすぎないが、解決に際して和解金を支払わされたような格好で事態が収拾された。

 韓国が「三不」を受け入れたことに、当然、米国は驚愕(きょうがく)する。米韓軍事同盟に枠をはめることになるからだ。いったい韓国の中国観はどうなっているのかという疑問が湧き起こる。

 東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(11月号)は韓国の中国研究の第一人者である李熙玉(イヒオク)成均館大成均中国研究所長にインタビューしている。その中で李教授は、単なる韓中2国間の視点で見るのではなく、「北朝鮮と結び付けた中国研究」が必要だと強調する。つまり、北朝鮮の核・ミサイル問題は中国の関与なしには解決し得ず、さらに南北統一さえも中国の同意・協力なしには実現しないのが現実だからだ。そのため、対北、対中外交が深く関連し合っているということだ。

 「韓中両国をめぐる国際政治構造が根本的に変わったので、両国が過去のような姿に戻るのは極めて難しい。中国が韓中関係を両国関係で見るのではなく、地域問題(北核等)や米中関係という大きい枠組みで判断し動くので、両国間の認識の差が次第に広がっている」との認識を示す。

 一方、中国・北朝鮮関係は信頼協力関係にあるのかと言えばそうではなく、李教授は「中朝間で形成された相互不信構造は歴史的に古いものだ」として、既に1930年代から中国共産党と朝鮮共産主義者との葛藤が激しく、韓国動乱後の人民解放軍の撤収でも摩擦が大きかったことを紹介している。

 このように基本的に中国にとって、北であれ、南であれ、朝鮮半島は“負担”の方が大きいのだが、なぜ手放さないのかと言えば、中国の対米関係の枠組みの中で半島は「戦略的資産」としての価値が大きいからだ。

 だから、北朝鮮が中国から石油などの供給がなければ生存すら不可能な依存関係にありながらも、中国の国際的体面を失わせるような核実験・ミサイル発射を繰り返せるのは、そうした自身の戦略的価値を自覚しているからだ、と言われている。

 韓国もまた、米の対中戦略の中で自身が重要な「戦略的資産」であることを十分に認識している。米と同盟を結びながらも、中国との関係を進め、安全保障上のリスクも甘受する。米中間の「バランサー」は別に重たい必要はない。均衡していれば、1グラムであっても、傾かせることができるからだ。強(したた)かな対中対米観が根底にあることを知っておくべきだ。

 編集委員 岩崎 哲