高まる核武装論、都市戦闘マニュアルなし
「核に対抗できるのは核しかない」。最近、韓国の一部で出ている強硬論だ。北朝鮮が「核保有国」を宣言した状況で、韓国も核武装して「恐怖の均衡」を取るという意味である。
もちろん、核武装が簡単にできるものではない。原発など原子力施設は国連の国際原子力機関(IAEA)によって厳しくモニターされており、核拡散防止条約(NPT)に加盟してタガがはめられている中で、核武装を強行しようとすれば、今の北朝鮮と同じ境遇になる。すなわち、国際社会から厳しい経済制裁を受けるようになるのだ。
もともと大きな経済規模がない北朝鮮と違って、自由貿易で成り立っている韓国が経済制裁を受けたらひとたまりもない。「北核」よりも「制裁」が頭上に落ちて韓国は崩壊するだろう。
核武装強硬論者も当然そのことは承知している。ここでいう核武装とは「米軍の戦略核の再搬入」を指すものだ。1991年、南北が朝鮮半島非核化宣言に調印したのを機に、在韓米軍に配備されていた核兵器は「搬出」されたが、これを“戻そう”というものだ。
朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(11月号)では、「韓国の危機」特集の中で、再核武装が論じられている。李春根(イチュングン)韓国海洋戦略研究所先任研究委員は、「北朝鮮の指導者らは核戦略の本質をかなり前から認識していた」として、北が核を持つ目的が、「米国にまで届く核ミサイルを開発すれば、米国の介入を心配せずに、韓国を接収赤化統一するいかなる作戦も主導的に展開することができる」からだと述べている。
つまり、北の核ミサイルは米国を牽制(けんせい)するためのもので、米本土攻撃能力は「牽制」を有効にするためのもの、というわけだ。従って韓国を攻撃するものではない。北朝鮮は発達した韓国のインフラをそのまま自分のものにするつもりだからだ。
李研究委員はドイツ出身で米シカゴ大学教授だった国際政治学者ハンス・モーゲンソーの言葉を引用した。「争っている2国の一方が核武装に成功する場合、他方は戦略的オプションが2種類に減る。一つは戦争して死ぬこと、もう一つはあらかじめ降参することだ」
前提条件の「一方が核武装に成功する場合」を打ち消すためには、戦術核再配備が必須だということであり、韓国政府は現実的選択を迫られるようになるだろう。
同誌の金ドンヨン記者の記事は、韓国軍の実戦想定が現実離れしている点を指摘している。北朝鮮軍は南北で戦端が開かれれば、瞬時にソウルに侵攻・占領する作戦を立てていると予想される。ソウル防衛あるいは奪還作戦は韓国軍の主任務となるはずだ。実際、韓国軍には「首都防衛司令部」があり、ソウル中心に防衛体制を敷いている。
ところが、韓国軍の訓練は山岳や荒地で行われるものばかり。戦闘技術もそれに集中しているという。山岳と大都市では装備も作戦も全く異なるだろうことは素人でも想像がつく。
米軍は2008年に「都心地作戦マニュアル」を作成し、欧州の大都市での対応を準備しているが、その中に韓国のソウルも入っていると金記者は書く。だが、肝心の韓国軍には「都心地戦闘を念頭において」おらず、装備も旧型だという。
北朝鮮はソウルなど韓国の都市に無人機を飛ばして、航空写真を撮り、市街地の状況を把握しているという。韓国の青瓦台の模型を建てて訓練していることも衛星写真で分かっている。韓国側の都心地戦闘マニュアル整備が急務なわけだ。
可能性は低いが実際に韓国にミサイル攻撃が行われたらどうなるか。同誌の崔ウソク記者は各都市の地下鉄の深度などをまとめた記事を出した。シェルターとして使えるかどうかを検証するものだ。ソウルの地下鉄には「防毒マスク」はあるが、食料の備蓄などは見当たらない。どの程度、避難した人が生き延びられるのかは不明だ。
そんなことより、戦争を回避することに集中すべきである。
編集委員 岩崎 哲