北対話に固執する文大統領

「トランプ癇癪」招く利敵行為 コリアパッシングを憂慮

 トランプ米大統領のアジア歴訪が11月に控えている。日本訪問では数少ない世界指導者の中の“親友”の一人である安倍晋三首相が出迎えてくれるのかどうか、総選挙の結果次第ではホストが変わる場合もあり得る。しかし、日本の場合、過去の社会党連立政権の例から見ても、たとえ政権交代があろうが、日米同盟を基軸とした安全保障政策が大きく変わることはまずない。

 ところが、韓国は北朝鮮という具体的な脅威と対峙(たいじ)しながらも、政権が代わるごとに、「対立と対話」の間を大きく揺れ動いてきた。左派の文在寅(ムンジェイン)政権は北朝鮮との対話を推進したいが、現実には、核実験とミサイル発射を繰り返して東アジアのみならず、今や太平洋の安全までをも脅かしている北朝鮮にはそれに応じる気配はまったくない。

 北朝鮮の核開発を野放しにした責任は国連の無力さと、強大国間の駆け引きにあるが、より具体的に言えば、安全保障理事会の経済制裁にもかかわらず、北朝鮮を陰で支えてきた中国やロシアがいたからだ。さらに言えば、北朝鮮に具体的な支援はしないまでも、同盟国間の歩調を乱したり、敵側に誼(よしみ)を通じたりして、結果的に「利敵行為」に走ってきた韓国の責任も小さくない。

 本来、韓国は国内に米軍を擁する同盟国であり、「自由」と「共産」が対峙する最前線である。地球上で最後に残った冷戦場だ。内通や寝返りは戦(いくさ)の常とはいうものの、政権自体が北の意を体して、同盟国の足を引っ張る現状では、さらに敵を利するばかりだ。

 東亜日報社が出す総合月刊誌「新東亜」(10月号)に「北対話に執着する文在寅にトランプ癇癪(かんしゃく)」の記事が掲載された。盧武鉉(ノムヒョン)政権で国防補佐官を務めた金熙相(キムヒサン)韓国安保問題研究所理事長へのインタビューを中心とした記事である。

 金理事長は、北と鋭く対立している米国にとって、「同盟国である韓国がたびたび(北に)『対話しよう』と呼び掛け、『軍事攻撃はしてはならない』と言っているのを好むわけがない」と述べる。当然のことだ。

 そして、「北朝鮮の核心部は米国の軍事攻撃を恐れながらも、中国と韓国が(軍事攻撃に)反対するため、米国は口先だけだと見て、核開発を継続してきた」と指摘する。これではいくら米国が圧力をかけようと、中国はまだしも、同盟国の韓国までもが米国の努力を無にしてきたも同然だ。米国は攻撃してこないと見切って、核実験、ミサイル発射を繰り返してきたというわけである。

 金理事長は、「北朝鮮としてみれば、韓国が『戦争反対』というのは、『安心して核を作りなさい』という激励に変わりなかった」という。中国や韓国に励まされ遂(つい)に北朝鮮は米本土にまで届く大陸間弾道弾を開発する段階に至っている。

 北朝鮮が核を持つと、韓国では「核武装論」が台頭してきた。1991年の朝鮮半島非核化宣言は今や有名無実化し、北核に対して“恐怖のバランス”をとるために、南も核を導入しなければならないという意見だ。米軍の戦術核を再配備しようという。さらに保守勢力からは自力核武装論まで飛び出しているが、この状況でもなお、文大統領は「(朝鮮半島の)非核化方針に変わるところはない」と、従来の政策を繰り返すばかりで、さらに政府の一部は、「北の核は米の核に対抗するもの」という北の代弁まで行っており、金理事長は「韓国の利害に致命的な被害が及ぶ」として心配する。

 こうした政府の態度はどこから出てくるのか。金理事長は「運動圏」と呼ばれる左派学生運動出身者が政府要職を多数占めていることを挙げた。その結果、米国が韓国政府を信用せず、重要な情報を知らせず、韓国抜きで朝鮮半島事態への対処を決める“コリア・パッシング”が進むと憂慮するのである。

 韓国の論壇ではこのような意見が多い。だが、政府は一顧だにせず、人道支援や対話を模索する。それらの支援でできた核ミサイルが同盟国を襲うのをどう見るのだろうか。

 編集委員 岩崎 哲