地下核実験と平壌人口縮小計画
白頭山噴火より核戦争を警戒
9月3日、北朝鮮の6回目の核実験によって世界に激震が走った。国際社会の強い反発と非難にもかかわらず、北朝鮮は「核保有国」に向かって着々と歩を進めている。だが、この地下核爆発実験には思わぬ“副作用”もあったようだ。
『月刊朝鮮』(サイト版9月6日付)で同誌編集長の文甲植(ムンカプシク)氏が「北核実験、白頭山を怒らせる」の記事を書いている。核実験が白頭山の噴火を誘発する可能性について紹介したものだ。
実験は咸鏡北道吉州郡豊渓里(プンゲリ)で行われた。白頭山は同地から130キロメートルしか離れていない。爆発実験は地下2000メートルで行われたが、「さらに8000メートル下には白頭山から延びているマグマ層と連結した層につながる」と専門家は言う。
このことを心配したのか、かつて北朝鮮は2013年に「英ロンドン大学の調査チームをはじめ西欧の専門家を呼んだ」ことがある。ロンドン大チームは「白頭山の6カ所に地震計測器を設置して山の状態を観察・分析した結果、『白頭山の下には液体、ガス、クリスタル、岩が混ざった状態で沸々としている』と分析した」という。「つまりこれは白頭山がいつ噴火してもおかしくないという意味だ」と文編集長は指摘する。
白頭山は歴史上、何度か噴火を繰り返してきた。朝鮮側の記録では「1579年、1702年、1903年」の噴火が記されており、日本側でも「869年以降、白頭山は最大5回噴火している」とし、10世紀中頃の大噴火では、火山灰が日本にまで及んで数センチの厚さに積もったという。
現在の中国東北地方にあった渤海(698~926年)はかつて盛強だった高句麗の2倍の領土を誇ったが、突然滅びてしまう。もちろん契丹、遼との戦いに敗れて滅亡したわけだが、白頭山噴火によって首都上京龍泉府をはじめ国土が破壊されたから、というロマンチックな説がいまだに唱えられている。
白頭山は北朝鮮にとっては、金日成(キムイルソン)主席が「密営」(ゲリラ基地)を構え、金正日(キムジョンイル)総書記が誕生したという「革命の聖地」であるだけでなく、もともと朝鮮民族の“揺籃(ようらん)の地”として崇拝の対象となってきた。
その白頭山に近く“噴火を誘発”する恐れのあるところで、核実験を繰り返すのはなぜか。文氏は言及していないが、北朝鮮当局はそもそも核実験が白頭山噴火を誘発するとは判断していないか、仮にその可能性があったとしても、「核保有国」化への希求の強さがそれを無視させているからだ。
それでも、北当局は実験の翌日、主要都市での古いアパートや増改築した建物の安全点検を指示した。これは地下核実験で発生する地震によって建造物の倒壊する危険性を認めているからこその指示だ。
だから「頻繁な核実験が白頭山を怒らせて、結局、自然災害による滅亡の道を行くのか」という文編集長の警告も修辞以上の意味はない。北朝鮮にとってはそれこそ馬耳東風だろう。
それよりもむしろ、同記事で引用している「自由アジア放送(RFA)」の内容が注目である。「平壌市人口縮小計画」だ。これは250万人の平壌市人口を「200万人」に縮小しようというもので、「消息筋」によれば「金正恩(キムジョンウン)が直接命令を下した」という。
縮小する理由は「核戦争が起きる場合、平壌地下鉄に200万人以上を収容できないという問題から始まった」という。平壌市地下鉄は地下90メートル、最深で150メートルに施設されており、「核シェルターを兼ねている」といわれる。
人口縮小をいつまでに実現するかには触れていないが、この措置が「核戦争に備えたものという話が広がり、恐怖感が深まっている」と伝える。米国の「先制攻撃」への恐れが広がっているのである。
北朝鮮が核実験を行うたびに、白頭山噴火の話は出てくる。実際に噴火すれば、核実験どころではなく、核の管理を含めて世界中から救援隊を送り込まなければならない。その時こそ、南北交流の最大の機会になると思うのだが。
編集委員 岩崎 哲