中国の北朝鮮急変事態対応 平壌以北を占領、核施設制圧へ

人民解放軍、国境線で戦力強化

 朝鮮半島の緊張が高まっている。ミサイル発射や核実験を強行する北朝鮮に対して、国連安保理は全会一致で強度を高めた対北制裁案を採択した。いつもは棄権ないし反対する中国、ロシアも北朝鮮の度重なる挑発で、今回は賛成に回らざるを得なかった。

 外交舞台とともに、軍事面でも緊張が高まっている。米原子力空母が朝鮮半島近海に展開したり、米戦略爆撃機が韓国軍戦闘機と共に半島上空を飛ぶというパフォーマンスも行われた。韓国軍は北朝鮮指導部を狙った「斬首作戦」部隊の創設も明らかにしている。

 こうして西側の様子は報道などを通じて伝わってくるが、北朝鮮の“後ろ盾”である中国の動きについてはあまり伝えられていない中で、中央日報社が出す総合月刊誌『月刊中央』(9月号)に、国際問題アナリストの李長勲(イジャンフン)氏による「中国の北朝鮮急変事態対応マル秘プラン」の記事が掲載された。中国の軍事対応策が詳しく述べられている。これを見ると、決してトランプ米大統領だけが舞台に上がっているのではなく、習近平中国国家主席も重装備で舞台袖に控えていることが分かってくる。

 8月1日は人民解放軍創設記念日だ。いつもは北京の天安門広場で閲兵式が行われるが、建軍90周年の今年は違った。7月30日、内モンゴル自治区の朱日和で行われたのだ。朱日和はモンゴル語で「心臓」の意。チンギスカンがユーラシア遠征に出発した地であり、清の康熙帝がモンゴルの「チュンガルの反乱」を討伐した所でもある。

 歴史上それぞれ最大の領土を獲得した2人に倣って、習主席は軍服に身を包んで「これから中国を強大国にし領土を必ず守護するという意思を内外に示すために」この地を選んだと李氏は分析する。

 その中国にとって、目下最大の課題は北朝鮮である。李氏は、「人民解放軍は最近になって中朝国境地帯で尋常でない動きを見せている」として、約1400キロメートルの境界線で「多様な戦力強化措置を取っている」ことを紹介した。

 例を挙げると、境界地域防御を専門とする旅団級部隊の新設、ドローン等を活用した24時間監視体制、核攻撃に備えた多数の地下バンカー設置、機甲歩兵部隊の前線配備などだ。さらに吉林省は中国では省政府としては初の地下戦時ビッグデータ災害対応センターを建設している。

 これらは何のための備えなのか。「米国の対北朝鮮攻撃や北政権崩壊に備えたもの」なのである。元人民解放軍少将・王海威氏は、「もし朝鮮半島で戦争が勃発すれば、中国は直ちに北朝鮮を占領して、主要な核施設を統制しなければならない」と述べている。

 人民解放軍の具体的計画では、▽難民発生▽政権崩壊と混乱▽核施設破壊と核汚染事態が発生した場合、「平壌を含んで大同江から元山線以北を占領する」ことになっている。北朝鮮の平壌以北を中国が占領するということだ。主な核施設は北側に集中しており、それらを中国が抑えるということだ。

 中国の軍事態勢改編はこれだけではない。李氏は、「とにかく中国はこれから“軍事崛起(くっき)”を通じて、米国に挑戦するという計画に拍車をかけることが明らかだ」と見通す。記事では人民解放軍がこれまでの7大軍区から5大軍区に、4軍体制から5軍体制に改編されたこと。閲兵式には米国全土が射程に入る大陸間弾道ミサイル(ICBM)「東風31AG」、地対空ミサイル「紅旗22」、対艦ミサイル「鷹撃K」、核弾頭搭載可能な中距離ミサイル「東風26」など最新鋭の兵器がお披露目されたことなどを挙げて、「人民解放軍の実戦能力を誇示した」と伝えている。

 米国はこうした中国の軍事的“野望”を公然と見せ付けられているわけだが、中国の“崛起”を傍観しているのか、主導権争いをするのか、いずれにしても米中の角逐が朝鮮半島を舞台に展開されることになる。

 見方を変えれば、米中の対立が激しくなればなるほど、北朝鮮にはそこに付け入る隙が広がってくることにもなる。朝鮮は歴史上、そうやって大国の間で生き抜いてきた。一方、舞台に上げてももらえない韓国がこの事態をどう見ているのか、どう動いてくるのか、また別の“変数”になってくる。

 編集委員 岩崎 哲