半数が運動圏出身の文政権 「主思派」が陰で牛耳る
いずれ本性現す可能性
韓国で文在寅(ムンジェイン)政権がスタートして1カ月が経過した時点で、月刊誌は新政権の人事に関心を集中させている。朴槿恵大統領(当時)も強調していたことだが、政権に就くとこの国の人は必ず「大蕩平人事を行う」と“約束”する。
「蕩平」とは李朝21代王の英祖が打ち出したもので、激しい党派争いを収めるため、派閥に偏らずに広く人材を求める人事策のことだ。次の正祖まで続けられたものの、結局、党争は収まらなかった。その激しさは陰謀、暗殺にまで及び、外敵が攻めて来ている国難の最中でもやまず、国土を蹂躙(じゅうりん)されたこともある。党争はこの民族の病弊といってもいい。
朴大統領もやはりこの国の指導者だった。「手帳人事」と言われ、知り合いの範囲で人事を行って批判を受けた。それどころか、民間人を政策決定に関与させた疑いすらあり、「蕩平」策どころの話ではなかった。
現在、韓国は北朝鮮の核・ミサイル挑発、サード(高高度防衛ミサイル)配備に反対する中国の“報復”、予測不能のトランプ米政府の東アジア外交、日本との慰安婦像撤去問題など、周辺各国との難問を抱え、まさに国内が一致して対応しなければならない状況に置かれている。だからこそ「保守派」を打ち倒して当選した「親北派」「左派」の文在寅大統領の人事が注目されるわけだ。
朴槿恵弾劾で空白が続いた外交は、意外にも選挙中から懸念されていたような混乱はない。北朝鮮のミサイル発射には国連安保理決議に沿って反対を表明し、訪米も通商問題の宿題は残ったが、サード配備で決裂することもなく無難にこなし、主要20カ国(G20)首脳会議の席では安倍晋三首相、トランプ米大統領と会談して、韓国メディアが「韓日米」対「朝中露」の構図に戻ったと伝えたほど“保守的”な歩みを見せている。
だが、文在寅政権の陣容を見てみると保守的とは到底言い難い。「月刊朝鮮」(7月号)は「半数が運動圏出身」と指摘している。同誌が政権発足後の「大統領府秘書陣・閣僚・政府要職人事を分析した結果、67人(公務員出身者除く)中、半分近い32人が運動圏であることが明らかになった」という。
運動圏とは左派学生運動・労働運動の活動家を指す。文氏が大統領秘書室長(官房長官に相当)を務めた盧武鉉(ノムヒョン)政権では、「運動圏出身でなければ名刺も出しにくかった」というほど、左派が政権中枢に入り込んでいた(文氏がその最たるもの)。同誌は「文政府も同じだ」と指摘している。
さらに運動圏の核心分子は「主体思想派」(主思派)と呼ばれ、中には秘密裏に北朝鮮へ渡り、思想教育、工作訓練を受け、「南に派遣」された者もおり、政界はもちろん、労働運動、教育、法曹など各界各層に入り込んでいる。国会議員となっていた李石基(イソッキ)は内乱陰謀罪容疑で逮捕され、後に有罪となり服役、李が所属していた統合進歩党は憲法裁判所の審判で韓国憲政史上初めて解散させられた。
大統領の最側近である任鍾皙(イムジョンソク)秘書室長は漢陽大総学生会長を務め、全国大学生代表者協議会(全大協)議長の時には、林秀卿(イムスギョン)訪朝事件を主導し、国家保安法違反で3年6カ月服役した“筋金入り”の運動圏だ。金大中(キムデジュン)大統領時期に国会議員を2期務めたが、その後落選。朴元淳(パクウォンスン)ソウル市長の下に身を寄せ、文氏出馬で陣営に入り、大統領府入りした。
任秘書室長をはじめとして、政権中枢にはこうした運動圏(主思派含む)が要所要所に配置されている。表面には出ていなくても、運動圏ではない康京和(カンギョンワ)外相の背後には「(同窓の)延世大出身の外交・安保ラインの実力者」が控えており、「彼らの共通点は北朝鮮との対話を強調してきた『主思派』ということだ」という具合にである。
盧武鉉政権では「韓米同盟を重視する同盟派と、南北関係を重視する自主派の“内戦”」が勃発したが、自主派に軍配を上げたのは秘書室長だった文氏だった。「条件がそろえば訪朝する」という文大統領がいつその本性を現してくるか分からない。
編集委員 岩崎 哲