知名度・支持率だけの潘基文氏
政治的実力には低い評価
今年行われる韓国大統領選で、候補者と目される人物について、韓国メディアが取り上げている。朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(1月号)で、日本にも小説『ムクゲノ花ガ咲キマシタ』が紹介されている作家の金辰明(キムジンミョン)氏が「2017大統領選構図」を描いている。
焦点となるのは野党候補が誰に収斂(しゅうれん)していくか、与党セヌリ党の“解体”と“再生”がどのように進むかだが、最終的に保守・進歩の陣営ごとに候補者が絞られていくのには、さまざまな合従連衡や振るい落としが繰り返されていくことになる。
問題はやはり「保守陣営の候補者がいない」ということだ。強いて挙げれば、今の時点で与党系候補者になり得るのは「潘基文(パンギムン)しかいない」と金氏は指摘する。だが、潘氏には保守系を糾合して、新勢力を形成するだけの実力がない。
前回の大統領選にも出馬が取り沙汰された安哲秀国民の党共同代表が、今回保守系の候補になるためには、この中途半端な潘氏を陣営に取り込んで自ら立つか、場合によっては「キングメーカー」になる道もあるということだが、弾劾政局の進み具合でどう変わっていくか、簡単には見通せない。
潘基文氏は日本でも名が知られている。盧武鉉政権で外相を務め、昨年末まで2期10年、国連事務総長を務めた。ただし核拡散や難民問題での無為無策、また縁故人事の横行などで「歴代最低、無能」と酷評されており、日本にとっても「慰安婦問題」などで偏った発言をしたり、一昨年、中国で行われた「抗日戦勝利記念」行事に出席したりして、「反日」ぶりを隠さなかった人物である。
韓国での評判も芳しくない。「あるのは知名度と支持率だけ」だと言われている。調整能力、決断力などの政治的実力がないことは、事務総長時代にさらけ出してしまった。韓国では国連事務総長を「世界大統領」と呼ぶ。実態とは懸け離れているものの、国際機関の長は十分に民族的自尊心を満足させる。それ故の知名度、支持率だが、政界やメディアで潘氏を評価する声はほとんどない。
潘氏の出身は忠清道である。過去の韓国大統領選では「地域感情」がキーワードの一つとなってきたが、これは慶尚道(嶺南)と全羅道(湖南)から出た対立候補の争いが形成されてきたからだ。忠清道は強いて当てはめれば湖南に属するものの、この構図からは外れてきた。それ故に大統領待望論があり、過去にも金鍾泌(キムジョンピル)元首相などが「大権」に臨んだことがある。
「新東亜」(1月号)でも同誌の朴スガン記者が潘氏を分析している。「本人の権力欲は強いものの、家族親戚は『国連事務総長までやった人物が(大統領選で大差をつけられて落選でもして)恥をかいては国の格が落ちる』と猛反対している」という。「忠清道待望論」についても、「世界大統領が(小国の一地域にすぎない)忠清道をうんぬんするのは適切でない」と政界関係者も否定的だ。
何より、潘氏は帰国の折、事務総長就任で世話になった盧武鉉氏の墓参りをしなかったり、選挙戦を意識した地域ばかりを訪問する姿が批判を受けていた。「真っ先に行くべきは彭木港だろう」というわけだ。彭木港は沈没で約300人の犠牲者を出した旅客船セウォル号追悼の地である。
月刊朝鮮に戻るが、金氏が注目する人物がいる。中央日報と衛星ケーブルTVのJTBC会長の洪錫炫(ホンソッキョン)氏だ。政界の人物でないから、日本でもまったく紹介されていないが、JTBCと言えば崔順実(チェスンシル)騒動の火付け役であり、洪氏は「今回、政権を押し倒す先駆的役割を果たした」と言われる。
金氏は「物申す革新保守、あるいは正しい保守のイメージ」だとして高い評価を与えている。選挙レースのどの時点で登場するか注目である。
編集委員 岩崎 哲