「月刊朝鮮」に核武装論 北脅威とトランプ発言で浮上

政界は深刻な〝安保不感症”

 北朝鮮の核脅威が高まっている。韓国政府は「北朝鮮が核弾頭を小型化して、中距離ミサイル『ノドン』に搭載できる能力を備えたと判断している」と明らかにしたことを4月5日付米紙ニューヨークタイムズが報じている。政府高官が匿名で数人の記者にブリーフィングした内容だ。その場にいた記者は3度も確認したという。

 北朝鮮のノドンミサイルは旧ソ連のR21ミサイルを改造したもので、700㌔㌘の核弾頭を載せて1300㌔㍍を飛ぶことができる。北朝鮮が本当にこのレベルの核ミサイルを持った場合、韓国全域はもちろん日本の中心部の打撃が可能、ということであり、「耐え難い危機」となる。

 朝鮮日報社が出す総合月刊誌「月刊朝鮮」(5月号)で元同誌編集長の趙甲済(チョガプチェ)氏が「韓国の核、北朝鮮急変時に中国の介入防ぐのにも有用」との記事を載せた。

 趙氏は北朝鮮の核脅威がこれほどの段階に達しているにもかかわらず、4月に行われた総選挙では「核問題がまったく争点にならなかった」と呆(あき)れている。「政府与党でさえも、打ち出した5大公約で北核脅威をはじめとする安保問題に一切言及しなかった」と“安保不感症”の深刻さを伝える。

 それだからこそ、米大統領選の共和党候補争いでトップを走るドナルド・トランプ氏の「韓国日本の核武装」論が際立つ。韓国の政府、政治家が意識的に北核脅威から目を逸(そ)らしているのは、自分の都合のいいものしか見ず、聞かず、非現実的な理想を軸に物事を論じたがる「両班」(貴族階級)の悪弊だ。

 しかし、海の向こうから厳しい現実を突き付けられた格好となった。トランプ氏は韓国(日本)の「安保タダ乗り」を批判している。「どうして米国が韓国(日本)を守らねばならないのか」「駐留米軍の経費全額を負担せよ」「でなければ撤退する」と、まるで“脅し”のようなことを言い、北核脅威に対応するために、さっさと核武装したらいいではないかとそそのかしているのである。

 日本政府は独自の核武装に対して即座に否定したが、韓国では保守派を中心に“渡りに船”とばかりに「韓国核武装論」が台頭した。かつて1970年代前半に朴正煕(パクチョンヒ)大統領によって密(ひそ)かに核武装が進められたことがあった。その動きを察知した米国は慌てて、韓国政府を説得、半ば脅迫して諦めさせたことがある。米政府による在韓米軍削減が行われたことに対応するものだった。

 米国が「核の傘」をはじめとする安保役割を削減しようとすると、韓国では核武装論が出てくる。これは安保バランスを維持しようとするある意味自然な動きともいえる。と同時に、基本的に核コントロールをしたい米国に対して、核武装論をぶつけることで、米軍削減や撤退を再考させようとする“取引”でもある。だが、今回はその前に米側から「核武装したらいい」という話が出てきた。政府は目を瞑り、保守派は核論議で喧(かまびす)しくなったというわけだ。

 さらに火にくべる薪(まき)が北から届いた。先ごろ行われた第7回朝鮮労働党大会で「核保有国」が改めて宣言されたのだ。既に年初からの核実験、ミサイル発射を受けて、韓国の政界やメディアからは次々に「核武装論」が出てきていた。

 趙氏は記事で、米研究所などの資料を基に、「韓国は数百の核弾頭を製造可能な核燃料を保有」「日本は5カ月で核爆弾製造可能」などと紹介し、また、トランプ氏が「民主党やメジャーメディアからは批判されているが、保守層や白人中産層の考えは違う」として、米国の中に韓国(日本)の核武装に賛成する世論があることも紹介している。

 韓国が核武装した場合、北核に対応する「防衛的核」となり、ひいては「北朝鮮有事の際、中国の介入を防ぐ役割」もあると趙氏は主張する。政府や政界の大部分は核武装論に対して“寝たふり”をしているものの、米国でトランプ氏が大統領になった場合、一気に核武装に進む可能性もあり、米韓の動向が注目される。

 編集委員 岩崎 哲