韓国識者の「嫌韓」分析 日本人「自信喪失」は浅い見方

反日そのまま触れたネット世代

 日本の「嫌韓」の深刻さにようやく韓国が気付き始めたようだ。遅きに失した感もあるが厳しい現実に目を向けるのは必要なことである。ただ、残念なのは、嫌韓の理由をもっぱら日本に求めて、自ら顧みることがない点である。

 日本の知韓派専門家や親韓派ジャーナリストたちが、「このままでは日本に嫌韓が広がる」と危機感を持ち始めたのは3年前からだった。2012年、李明博(イミョンバク)大統領(当時)が野田佳彦首相(同)に“突然”「慰安婦問題を解決せよ」と迫り、竹島に上陸しただけでなく、天皇陛下に謝罪まで要求したことで、一気に韓国への反発が広まった。

 朴槿恵(パククネ)政権になってからもその流れは変わらず、安倍晋三首相との首脳会談が行われないだけでなく、「告げ口外交」が展開された。この時点で、韓国側の事情を理解し日本に伝えてきていた知韓派ジャーナリストでさえ、「いい加減、うんざりしている」と本音を吐露したものだ。彼らがうんざりしているということは相当に事態は深刻だということだった。

 心ある知韓派は韓国側に様々なルートを通じて、こうした日本側の変化を告げてきたが、韓国側はそれに気づかず、相変わらず日本を追及するだけで、ゴール地点を示したり、妥協点を探ることはしてこないままに、今日を迎えている。

 中央日報社が出す総合月刊誌「月刊中央」(9月号)に「危険水位越えた日本人の嫌韓意識」の記事が掲載された。金敬哲(キムギョンチョル)氏によるもので、金氏は「講談社雑誌部門ソウル通信員」の肩書を持つ。上智大学大学院新聞学科を卒業しており、東京新聞ソウル支局記者の経験もある。つまり、普通の韓国人よりも日本、日本人を知っているわけだ。

 日本の嫌韓の原因を、「“失われた20年”による日本の自信喪失」「敗北感と劣等感」だと分析している。“中国の台頭、韓国の猛追”が日本に中韓に対する警戒心を呼び起こしたことは事実だろう。

 金記者は、「小此木政夫慶応大学名誉教授」の「国際社会の構造変化の中で日本の地位が弱まったという相対的剥奪感が大きくなった」との分析を引用して自論を補強する。

 しかし、それだけで日本が韓国を嫌い、敵愾(てきがい)心を持つと考えたのだろうか。ものごとには切っ掛けがある。最近の「嫌韓」の下地は2002年の日韓ワールドカップの時に作られた。韓国に関心のなかった日本人が共催国の韓国に目を向け始めたのだ。

 ところが、「日本を野次る韓国サポーター」や露骨に日本の負けを願う韓国民の姿を見て、それまで韓国に対してニュートラルだった日本の若者は“嫌な感じ”を抱く。さらに、その頃始まった韓国メディアの日本語版がネットを通じて伝えられるようになると、韓国で日常的に表出される「反日」の実態が知れ渡るようになった。

 その後に来る「韓流ブーム」は、まだ水底で静かに流れるだけだった嫌韓の存在を隠す形となったが、その一方で韓流に嵌(はま)るファンの「挑戦的な排他性」が嫌韓を育てる肥料として作用した。

 それがはっきりと表に出てきたのが「マンガ嫌韓流」である。これほど正面切って遠慮なく韓国を批判したものはなかった。それから、ネットはもとより、書店には専用コーナーができるほど嫌韓本が次々に出版されるようになったのである。

 こうした状況に金記者は解決策をどのように提示しているのだろうか。日本では「度が過ぎた嫌韓への自省の声」が出始めているのに対して、「われわれもより成熟した日本観が必要だという指摘が出ている」と述べるのが精いっぱいの状況だ。

 そして、「首脳外交を復元して解決方法を探ることが重要だ」という李元徳(イウォンドク)国民大日本研究所長の言葉を紹介している。首脳会談は重要だが、「複雑骨折」と言われる日韓の対立関係がそれで解決されると期待するのは、首脳会談のハードルを上げることになる。危険水位を越えてしまった嫌韓意識を鎮静化させるには、もっと両国民が知恵を出さなければならないだろう。

 編集委員 岩崎 哲