韓国のMERS騒動 政府の秘密主義が広める

女性論客が大統領を批判

 中東呼吸器症候群(MERS)が韓国で広がり、韓国政府の初期対応のマズさに批判が集中している。これに対して、大胆な分析が「月刊朝鮮」(7月号)に掲載された。「朴槿恵(パククネ)大統領が一般家庭の主婦だったら、まず何をすべきかが分かっていただろうに」という指摘だ。

 青瓦台(大統領府)の奥に引きこもり、一般人の感覚を持たない大統領には庶民が何を求め、何を恐れているかが分からないということだが、この批判は辛辣(しんらつ)である。

 朴大統領が独身を通し、子供をもたないのは個人的理由からだろう。生い立ちや両親の暗殺、その後の生活、政界入りの事情などを考えれば、朴大統領の人生は時代に翻弄(ほろう)されたものと言っていい。大統領になったのも本意だったのかどうか分からない。

 そうした事情を勘案すれば、朴大統領に向ける目も柔らかくなろうというものだが、同性の目線はえてして厳しいものだ。この記事を書いたのは地域文化疎通研究院の林度京(イムドギョン)院長だ。慶煕大学校メディア情報学科客員教授も務める。

 林院長は、しかし、最初から「独身女性」であることを責めているわけではない。政府の秘密主義、後手に回る対応、責任逃れを挙げながら、最終的には大統領が「究極的な責任を負わなければならない」と述べる。それが共和制だからだ。

 韓国政府の対応を振りかえってみよう。5月20日にMERS確診患者が出てから、保健福祉部長官が最初に発病者が出た平沢聖母病院の名を公表したのが6月5日だった。実に18日も経っていた。

 しかも、前日のある会見がなければ、この日の政府の動きがあったかどうかさえ疑わしかった。政府の無対応にしびれを切らした朴元淳(パクウォンスン)ソウル市長が会見していたのだ。

 MERS患者がどこの病院を回ったのか、それが不明ならば、市民はまるで地雷原を目を瞑(つむ)って歩くようなものだ。日々、報道やSNSを通じて、MERS患者の数が増えていくにもかかわらず、危険地帯(患者発生医療機関)がどこにあるかが分からない。こうした無情報状況は恐怖だけを育て、パニックを呼ぶ。危機管理から言えば、政府の無策は最悪の対応だった。

 6月7日になって、ようやく崔炅煥(チェギョンファン)国務総理代行が「MERS患者を受け入れた24の病院」を明らかにした。あまりにも遅きに失した発表である。しかも、崔総理代行は、「既に6月3日に朴大統領もMERS対応官民合同緊急点検会議で、国民安全確保の次元で、患者が発生した医療機関を透明に知らせなければならない、と指摘していた」と“弁明”した。

 「6月3日」は特段早い日程でもなんでもない。むしろ遅いくらいだ。3日に指示されて7日に発表というのも遅い。崔総理代行は、「準備を整えて発表した」というが、政府の緊急対応とはそれほど時間のかかるものなのか。

 林院長は一つの笑えないエピソードを紹介している。「6月4日から大統領府では1000万ウォン相当の熱感知センサーを設置、出入り者などの体温までチェックする物々しいMERS警戒態勢を敷いた」というのである。3日に会議を開き、翌日にはもうセンサーを設置して、「国民安全確保」に努めたのだ。

 林院長は、「MERSという怪物は政府の管理疎通能力不足が育てた」と強調する。李明博(イミョンバク)政府の初期、米狂牛病騒動が起った。教訓は「国民との疎通不足がもたらしたパニック」というものだが、これは生かされず、「政府は相変わらず秘密主義、閉鎖的な態度で、問題に適切に対応できなかった」(林院長)のだ。

 いまでは「秘密主義」「疎通不足」が朴大統領の代名詞のようになっている。これは朴大統領の個性からくるのか、韓国大統領制というシステムから出てくるものなのか。林院長は「初の女性大統領に期待した」のと同時に、朴槿恵氏には「庶民感覚」「主婦感覚」が欠けているという懸念もあったと述べている。それが的中してしまった格好だ。

 編集委員 岩崎 哲