対日ツートラック政策、中国の後追いをする韓国
「変心」促す元駐中国大使
「歴史認識問題」を盾に一歩も前に進めない朴槿恵(パククネ)大統領の対日外交姿勢に対し、韓国内から批判が出はじめている。「歴史問題と経済・安保は別。分けて進めよう」という“ツートラック”政策だ。
こうした意見が韓国の政界やメディアから出てきた背景には、歴史問題で“共闘”しているはずの中国の対日姿勢に変化が出てきたことと、「新蜜月時代」と言われるほど日米関係が良好なことが挙げられる。
しばしば「二股外交」と批判されながらも、米韓同盟と中韓戦略的パートナーシップは韓国外交の軸だ。米中との強い関係こそが対日強硬姿勢の保険だとばかりに、それこそ、就任以来5度も首脳会談を行うなど、中国との“蜜月”関係を誇示し、また「韓米同盟のほうが日米同盟よりも古い」と強調してきた。
ところが、中国との関係を強調しすぎるあまり、米国の不興を買って、対米関係に隙間風を吹かせたり、頼みの中国が日本とにこやかに握手する姿を見せ付けられると、「韓国外交の失敗」「外交孤立」の批判が向けられた。
冷静に見れば、日米同盟の深化は韓半島の安全保障に大きく資するものであり、日中の対話は韓半島の平和安定につながるもので、いずれも韓国にプラスに働く要素であることは不思議と顧みられない。
とはいえ、対日関係悪化は経済や観光にまで影響が出てきているとあって、さすがに韓国メディアでは首脳会談など対日行動を起こすよう朴政府に促す論調が増えてきている。
それは韓国政府としても分かっていることだ。しかし、急激に対日政策の舵(かじ)を切ることもできない。与野党の勢力が拮抗している中で、朴大統領が対日姿勢を緩めるような印象を与えることは“命取り”になりかねないからだ。
そこで、世論の批判を受けずに対日政策を転換するには、国民やメディアが納得する名分が必要となる。名分として最も言い訳が立つのが「中国はどうしているか」だ。
中央日報社が出す総合月刊誌「月刊中央」(6月号)は、元駐中国大使の権寧世(クォンヨンセ)氏に話を聞いている。権元大使は、習近平中国国家主席について、「日本との関係で見るように、必要なときには果敢に変心できる政治家だ」と評価し、これは「実用を追求してきた中国指導部の伝統」だと紹介した。
「実用」とは言い換えれば、韓国の「ツートラック」に当たるだろう。解決の難しい歴史問題はさておき、経済関係など実質的な課題を先に進めていくことである。つまり、中国は既に対日政策を「実用」に切り替えているのだから、韓国政府も「果敢に変心」して、「ツートラック」を進めていくべきだと促していると読める。
対中、対米関係でも権元大使は「国益により決定を下せばよい」として、自尊心や名分に拘りすぎず、「国益」で行動するよう説いている。
対日強硬派の先頭に立つ尹炳世(ユンビョンセ)外相を日本に送り、日韓外相会談を行わせようとするのは、こうした世論の下地ができたことを踏まえてのアクションだとも見られる。
権元大使は、9月に中国が行う「抗日戦争勝利70年」記念式について、中国が「大国としての地位を誇示しようとする意図」があると指摘する。もともと、対日戦の“勝者”は「国民党政府」であって、1949年に成立した中華人民共和国ではない。なのに大々的に式典をするのは、「1800年代以前、世界の中心に君臨した時期の栄華と地位を回復しようとしている」からだとみる。
この場に、中国は北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)国防委員会第1委員長と朴槿恵大統領を招こうとしている。中国が南北首脳会談のお膳立てをし、初の首脳会談を演出できれば、中心国家として韓半島への強い影響力を誇示できるわけだ。
中国の「実用」を韓国が、朴槿恵大統領がどう受け止めるか、今後の対日政策に現れてこよう。
編集委員 岩崎 哲