駐韓米大使襲撃の深層 犯人を野放しにした左派判事
アメリカ大使襲撃テロ事件に韓国は大きな衝撃を受けている。「どうしてこのような危険人物が野放しにされ、やすやすと大使に接近できたのか」ということだ。外遊中に事件を聞いた朴槿恵(パククネ)大統領は、「背後を含めて、徹底した調査を行う」と指示した。大統領が「背後関係」に関心を寄せていることを示している。
だが、犯人の金基宗(キムギジョン)容疑者は以前、抗議の焼身を試みるなど奇行の多い人物で、日本大使襲撃を含めて前科6犯、数々の事件を起こしていただけに、「単純な個人の犯行」にすぎないとの指摘もある。主に野党や進歩派の学者に多く、事件を矮小化(わいしょう)し大事にしたくないとの心理も働いているだろう。
まさに、この考え方こそ、金容疑者を“育てた”韓国に巣食う「従北がん」だと主張する人がいる。元月刊朝鮮編集長で韓国を代表する保守派言論人・趙甲済(チョカプチェ)氏だ。同氏が主宰するネットメディア「趙甲済ドットコム」で指摘している。
事件は3月5日、ソウル中心の世宗文化会館で行われた朝食講演会場で起こった。当初、出席者ではなかった金容疑者は持ち物チェックを受けることなく会場に入り、マーク・リッパート大使に近づいて、用意していた刃渡り25㌢㍍の刃物で切り付け、頬に長さ11㌢、深さ3㌢の傷を負わせ、左腕にも貫通傷を負わせた。大使は80針を縫う大手術を受けた。もう少し深かったら頸動脈や顎の神経を損傷した可能性もあったと、執刀医は語っている。
事件に衝撃を受けた韓国政府は、緊急国家安全保障会議(NSC)を開き、「深刻な国家安保上の危機」と規定し、朴大統領も「韓米同盟への攻撃」と非難した。米国務省も「強く糾弾」しつつ、「常識では起りえない事件」と衝撃を隠さない。
なぜ「起こりえない事件」が起こったのか。趙甲済氏は、金容疑者が自由に歩き回り、犯行ができる韓国社会にこそ根本的な原因があると指摘。それを「大韓民国の全身に従北がん細胞」が広がっており、がんを追い出す「免疫機能」が正常に稼働していないからだと例えた。
韓国の「従北」の現状を趙氏はこうまとめる。「国軍統帥権者(大統領)が北朝鮮を『主敵』と呼べず、核爆弾とミサイル開発に使われることが明らかな資金を渡し、従北左翼勢力が思うままに国家破壊活動をできるように国家保安法を死文化させ、従北勢力が政党まで作れるようにしてやり、国会を共産化の橋頭保とし、米韓連合軍司令部解体を叫び、左翼判事は愛国者を罰し、逆に反逆者をかばい、北のミサイルを防ぐ防衛網設置に反対している」と。そして、そのような中では韓国の「生存自体が偶然の幸福だ」と断じた。
この環境でがん細胞はすくすくと育ち、そして野放しにされていたわけだ。だから、2010年に日本大使にコンクリート片を投げつけ、通訳官の女性が負傷した事件で、ソウル中央地裁が「懲役2年、執行猶予3年」という非常に「軽い処罰」しか出さなかったのも、当然と言えば当然だったのだ。
「従北がん」が浸透しているのは司法界だけではない。趙氏は「1980年代から言論界に浸透した反日・従北勢力」の記事で、マスコミ界にも従北勢力が根を張り、左派に甘く、保守派に厳しい報道をしていると指摘する。
「北朝鮮と中国共産党の対韓・対日戦略は、韓日間の尖鋭な歴史および領土問題を集中的に攻略して、韓米日共助体制を瓦解させることを基本方針としている」とし、その線に沿って、韓国メディアは対日報道を展開しているという。
80年代から、左派勢力は学生を司法やメディア、教育、さらには国会にまで浸透させてきた。盧泰愚(ノテウ)大統領は「大学運動圏は北朝鮮の支援を受け、優秀な学生を集中的に訓練して、社会各層に潜り込ませている」ことを憂慮していたという。
いまの韓国は、そうした北朝鮮の工作が実って、テロ危険分子が米大使を襲う社会にまで“成長”してしまったわけだ。今回の米大使襲撃事件で、韓国が自身の症状に気付いて、がんを克服できるのかどうかは、事件の“深層”解明にかかっている。(編集委員)
編集委員 岩崎 哲










