在米・劉氏の外交論、日本「生存第一主義」と論考
朝日記事分析は自意識過剰
常に鋭い日本分析を書いている在米韓国人の劉敏鎬パシフィック・インク企画局長が「月刊朝鮮」(11月号)に「日本の生存第一主義とウーマノミクス」の記事を寄せている。外交であれ、内政であれ、日本人の行動様式の根底に「生存第一主義」があるというもので、名分や体面に拘(こだわ)るあまり実利を失う韓国外交と比較していて興味深い。
「生存第一主義」の実例として、劉氏は、慰安婦強制連行の虚報が明らかになり、国民的非難を受けている朝日新聞の報道姿勢に着目した。ちなみに、朝日新聞と言えば、韓国では「右傾化する日本にあって良心的な新聞」と評価されている。
その朝日新聞がソーシャル・ネットワーキング・サービス(SNS)のLINE(ライン)について書いた記事に、同紙の「生存第一主義」を見るというのだ。それは、上場を予定しているLINEが「韓国ネイバーの100%子会社」と紹介したからというのだが、どういうことか。
日本でも利用者が多いLINEが「韓国の会社の日本法人」であることは、今では誰でも知っている。いまさら「暴露される」とかの問題ではない。この“出自”を隠しておきたいことのように劉氏が捉えているとすれば、意外な感じがする。
それに劉氏は大きな勘違いをしている。無料通話・メールアプリのLINEは日本で企画・開発された「純国産」「和製」である。たとえ「韓国ネット企業の日本法人」だとしても、「それがなんだ」というのが大部分の日本人の反応だ。既に昨年LINEが「韓国製か日本製か」の議論も起こっていたことを劉氏は知らなかったのだろう。
ともあれ、朝日のこの1行をみて、劉氏は朝日が「安倍首相にひれ伏した」と解釈するのもどうだろうか。確かに、朝日新聞は厳しい状況に置かれているが、だからといって、安倍政権に阿(おもね)って、どうでもいいことを記事に付け足したりはしない。
また、これで朝日がこれまでの「親韓論調」をやめたという解釈も自意識過剰だ。既に2年前、李明博大統領(当時)が京都日韓首脳会談で、唐突に「慰安婦問題の解決」を野田佳彦首相(当時)に突き付け、さらに韓国大統領として初めて竹島に不法上陸した頃から、朝日の“親韓”記者でさえ嫌になっていた。この「空気」を読めなかった韓国メディアの東京特派員は何を見ていたのだろう。
さて、劉氏が主張する日本の「生存第一主義」だが、朝日新聞の例は的外れとしても、集団的自衛権、日米ガイドラインなどで、日本が米側の要求を入れつつ、日本の国家戦略を進めて行く姿勢にそれが顕(あらわ)れていると述べる。
それに対して、韓国はどうか。安倍首相が無視されながらも朴槿恵(パククネ)大統領に韓国語で話しかけ、「対話の窓は常に開いている」と首脳会談を呼び掛けているのに対して、「外側では朴大統領を韓日首脳会談に反対する人物と映って」おり、「それが外交戦略的次元の対応か?」と疑問を呈する。
最近では、朴大統領の「噂話」を書いた産経新聞ソウル支局長を起訴したが、これも「外国から見れば言論の自由に逆行する非民主的事態」であり、「後先を考えない“感情的腹いせ”に過ぎ」ず、それで「韓国の国家的利益が保存、増進される」とは到底思えない対応だと劉氏は嘆く。「朱子学的大義名分で対応するのは時代錯誤だ」との警告は韓国に届くのだろうか。
「ウーマノミクス」でも、安倍首相夫妻は9月の訪米中、各所で女性の登用を強調して回った。「『日本』と『女性』と言えば、従軍慰安婦ではなくウーマノミクスを想起するだろう」と宣伝の効果を伝えている。
同時に、女性と言えば、女性大統領を民主的に選出した韓国は決して日本に後れを取らない存在なのに、世界への広報がなされておらず、日本に先取りされてしまった、と劉氏は指摘する。
さらに2016年米大統領選を睨(にら)み、候補に擬されているヒラリー・クリントン元国務長官とも安倍首相夫人が会っていることを見て、「ウーマノミクスは次期大統領選以降の米国政治まで見通す、長期的次元の外交カードとなった」と評価した。
いささか買いかぶりの気もするが、日本の外交が緻密なのに対して、韓国外交が多分に感情的すぎて場当たりになりがちなのは確かなようで、こうした劉氏の記事を韓国人はどう読んでいるのか興味のあるところだ。
編集委員 岩崎 哲